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【あらすじ】
霧の城が呼んでいる、時が来た、生贅を捧げよ、と。イコはトクサ村に何十年かに一人生まれる角の生えたニエの子。その角を持つ者は「生贅の刻」が来たら、霧の城へ行き、城の一部となり永遠の命を与えられるという。親友トトによって特別な御印を得たイコは「必ず戻ってくる」と誓い、村を出立するが―。
さて本作には原作に当たるゲームがあります。ゲームの内容は角が生えたために生贄として謎の古城に閉じ込められた少年イコが、そこで出会った言葉の通じない少女ヨルダの手を取り、彼女を守りつつ共に古城から脱出する内容のアクションアドベンチャーゲームです。(wikiより)
ゲームの基本構造はアクション要素のあるパズルゲームといった感覚です。仕掛けを起動したり何かを動かして城の脱出を目指すゲームです。
特徴的なのは独特の世界観です。文字で語られることは極端に少なく、映画のようにきれいな映像で物語を進めながらその背景にある意味をプレーヤーが読み取っていくようなつくりになっています。
本作は原作ゲームをプレーした宮部みゆきたっての希望で、ノベルス化したものです。
ゲームの解説部で記載いたしましたように、物語の細部が語られない原作ですが、制作陣はそれを支える裏設定を当然持っていました。しかし本書執筆に当たっては宮部みゆきという、いちプレーヤーが解釈したICOを描いて欲しいという原作制作陣からの意向で設定資料は渡されず、ゲームをプレーし表舞台に香るヒントや雰囲気から宮部さんの解釈により書かれたのが本作です。
元々ゲーム好きで近年では『英雄の書』や『ブレイブストーリー』といったファンタジー色の強い作品にも取り組んでいる宮部さんのことですから、ファンタジー作品第一弾にあたる本作もかなり期待して読みました。またゲーム自体は私は未プレーなのですが10年以上前に普段ゲームをしない友人がその独特の世界観にすっかりはまってしまったことも記憶していたので、原作自体から香るテイストにも期待が膨らみました。
実際に手をつけて見ればわずかしか情報が与えられない原作をプレーしただけで広大な世界史までをも作ってしまう宮部さんのイマジネーションと作家としての構築力に脱帽させられました。
またイコとヨルダ2人の脱出劇そのものも原作の最大の特徴でもある「手をつなぐ」という動作が非常に温かく優しく表現されており、原作を損なわないつくりになっています。(それ以上の意味も与えられていますが)同時に城の不気味さ、不穏さ、不安感も丁寧に描かれていて、それがより一層手をつなぐという行為に読者自身すらも安心させる強い効果になっています。
『英雄の書』でも非常に残酷なテーマ、出来事が起こりますが本作もそれは同様で、むしろ辛く過酷なことが大半を占めそれ故またイコとヨルダの幸福を求めてやまない気持ちになります。ただの生暖かいだけのファンタジーにしないところが社会(人の世界)の闇を描いてきた社会派宮部みゆきの素晴らしさだな、と改めて感じました。
唯一の減点はパズルアクションゲームを原作にしたとは言え、あれを動かして道を作って、というゲームで実際にプレーヤーが動かすパズル部分が小説だと少し退屈になってしまっているところですかね。ある意味その疲れがイコの疲労や作内の時間間隔を共有させる役割もあるのでしょうが、読んでいて面白みのあるパートではなかったような気がします。
名作ということでPS3でHDリマスターバージョンがリリースされたようです。