リオ―警視庁強行犯係・樋口顕 (新潮文庫)/今野 敏

¥620
Amazon.co.jp

☆☆☆
昨日ご紹介した「隠蔽捜査」に引き続き今野敏の作品です。

3件の連続殺人事件。この3件の事件を結びつけるのは現場から逃亡することを目撃された「リオ」という少女だけ。全ての人間を魅了するほどの美貌を備えたリオ、彼女は本当に犯人なのだろうか?

今作の主人公である樋口顕は「隠蔽捜査」の竜崎と比較するとあまりに普通の刑事です。慎重で人目を気にし、取調べでも脅しや暴力を使わず「話を聴く」という態度を一貫して守る。しかしそんな刑事らしくない態度が思わぬ効果を生むこともあって、周囲からは高い評価を得ている。ところが自己評価の低い本人はそんな周囲の評価とのギャップを気に病んでいる。

ストーリー自体は中盤までが謎の少女リオを探す物語。後半がリオを確保してからの物語。
ただ正直なところストーリーそのものは二転三転する展開もなければテンポもスローです。その結果あらすじを書こうと思うと物語の後半部にまで触れなければならなくなってしまうわけです。それを避けたいために私のあらすじ紹介は本筋には触れていません。これは「隠蔽捜査」の時も同じだったのですが、裏表紙のあらすじを読むとストーリー後半部まで描かれてしまっているんですよね。

ただそれが悪いと指摘しているわけではありません。今野敏の作品の魅力はストーリーの筋ではなく、ストーリー内で展開される会話であったりキャラクターの心情だったりするわけです。また私自身は警官でもないし逮捕歴もないので、現実と比較してリアルかどうかは判断できかねますが、作品内に登場する刑事、ひいては警察組織はいかにもありそうなリアリティーを持っています。この点は今野敏の警察小説の魅力の1つです。

さてさてそんなこんなの今野敏の警察小説ですが、個人的には「隠蔽捜査」の方がお勧めです。
それは両作の共通点を比較した際に「隠蔽捜査」の方がより優れていると思えるからです。2作に共通しているの主役の内面の葛藤を描いていること。社会を描いていることです。共に「隠蔽捜査」の方が出来が良いと思いますが、特に問題にしたいのが社会に対するアプローチです。官僚のリアリティーやあるべき姿を描いた「隠蔽捜査」は素晴らしい作品でした。一方の今作は「世代」を描いています。ところがその描き方が団塊の世代の批判に終始しているんですよね。団塊世代の直後の世代である主人公がことあるごとに様々な事象を団塊の世代の責任にしたがるんですが、その登場頻度があまりに多くてげんなりします。しかも作中で複数のキャラクターに「何でも世代論に持ち込むのは悪い癖だ」と言った指摘を3度ほど受けてるんですよね。これは作者の良識なんですかね?恐らくは作者自身が団塊の世代に対して問題提起をしたいんでしょうが、少々うっとおしいです。序盤に1度か2度だけ登場してあとは作品全体の雰囲気から匂わせる、といった程度にしておいた方が良かったですね。作中で繰り返し繰り返し社会問題を提起したがるのは今野さんのよくない癖です。

これまでご紹介した今野敏作品
「蓬莱」
「イコン」
「神々の遺品」
「隠蔽捜査」

共同研究 団塊の世代とは何か/張 富士夫

¥1,700
Amazon.co.jp