イコン (講談社文庫)/今野 敏

¥800
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☆☆☆
仮想世界のアイドル有森恵美。誰もが顔も見たことのない彼女のイベントで少年の刺殺事件が起こる。事件の真相に迫るため、実在するのかも分からないアイドルを追う安積班。果たして彼女は実在するのだろうか?そして事件との関係は?

先日ご紹介した今野敏の安積班シリーズ続編です。今作でもまたもバーチャルな世界に飛び込んでいく安積警部補の物語です。この本は先日書店で購入したのですが、前回紹介した「蓬莱」と並べて「時代がやっと今野敏に追いついた」という帯がつけられていました。まさしくその通りで、前作も今作も発売当所に読んでいたら安積警部補共々PC用語や概念についていけなかっでしょうね。今でこそ当たり前のように話している話でも10年前には未知の世界ですから。

さて時代の先行く今野敏は本書で一般的なアイドル論から敷衍して新しいアイドルシステムの構築を試みています。
アイドルの変遷として
美空ひばりのような国民的スター→スター誕生に代表される身近なアイドル→おにゃんこクラブに代表される、アイドルそのものよりもシステム自体が魅力的
といった流れがあるわけですが、今野敏はその先にあらすじでご説明したような未来のアイドルのフォーマットを作り上げます。
非常に面白い試みでそれを補足するための論理がまたも衒学的に展開されていくわけですが、いまいちその薀蓄が魅力的じゃないんですよね。なんか話を書くために説明している、という感じが表に出すぎていて。小説に馴染まないと言うか。別に堅い話を書いているわけではないんですけど書き方としては演繹的に論文を書く為の根拠として論理を提示されているような。
これはこの人の作風なんですよね。今回は裏テーマとして「教育」があると思うんですけど、どうも何か自分の主張や論理があってそれを書きたいという欲求が強すぎるんですよね。刑事モノドラマなんでエンタテインメントでいいと思うんですけど。論文を書いているわけじゃなくて物語を書いているのだから、その辺のことは読み手の感性に委ねた方が魅力的な作品になる気がするのですが。

ただ前回同様、面白い試みですし、非常に読みやすい文体と内容なので面白く読めることはまず間違いないです。