蓬莱 (講談社文庫)/今野 敏

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☆☆☆☆
つい1週間程前に読んで既にご紹介した「小説 こち亀」の著者の1人今野敏さんの作品です。
この人名前は知っていたんですが「小説 こち亀」を読むまで1度も読んだことなかったんですよね。
しかし「小説 こち亀」では執筆者に京極夏彦や東野圭吾といったそうそうたる面子の中、ダントツに気に入ったのが彼の作品だったので早速読んでみました。
本作を1発目に選んだ理由は特に無く、背表紙を読んでストーリーに興味が湧いたからです。
あっ!ちなみにシリーズ第4弾から購入したのはこれをシリーズ物だと思わなかったからです。また購入後詳しく調べてみると安積班シリーズはいくつかのタームに分かれているようでこの作品は第2タームの1作品目でした。おかげで違和感無く読めました。

さてさてあらすじは
特殊な建国シミュレーションPCゲームとしてヒットした「蓬莱」。従業員数わずか5名の「ワタセ・ワークス」は社運を賭けパソコン版からスーパーファミコン版への移植を決定した。
しかし、たかだか1ゲーム発売を妨害しようと動く暴力団、更にその陰に見え隠れするより大きな力。どうやらその秘密はこのゲームにあるらしい。果たして「蓬莱」が抱える秘密とは?そして発売を妨害しようとする陰の力は一体何をたくらんでいるのだろうか?

実は私がこの作品を手に取った理由の1つに軽く読めそうだな、という思いがありました。初めて手を出す作家さんなんで軽めのもので試してみようと思ったんです。
ところがまあ重いこと重いこと。いわゆる人の命の重さとか、そういった重さや重厚感はないのですが、テーマが多岐に渡っている上に深いんですね。一言で言えばプチ京極夏彦です。なんてったって「塗仏の宴」のテーマの1つにまでなり随分言及されたあの歴史上の人物にまで話が及んでますし。
多岐と書いた以上、言及されているのはその人物についてのみではありません。ゲームのプログラミングの話から始り、民俗学、日本人論、世界情勢といったあたりにまで話が飛びます。非常に衒学的なお話でした。
まあしかし、結果的にはこの作品から入ってよかったと思います。それだけ読み応えがあり、かつ面白い作品でした。
ただ少し欲張りすぎたのかな?という印象も受けました。
京極夏彦の素晴らしさはあの膨大な量の薀蓄を調べたことではなく、それを受け止めきれるだけのストーリー展開、話術、世界像を作り上げた点にあります。
本作はあくまで「プチ京極夏彦」なので薀蓄量もそれなりです。ところが、読んでいて話が落ち着かない、散漫だという印象を受けてしまいました。小説の価値は薀蓄の量ではありませんから、知識を披露でき無いからといって、作者の技量が無いわけではありません。
ですが、情報を網羅した以上はそれを受け止めきるだけのストーリーを作れなければそれは作家の技量不足と言わざるをえません。また日本人論という大風呂敷を広げた割には、「で?最終的にどう思うの?」と言った着地点も見えず、その辺に関しても構成の仕方に疑問を感じます。

さてさて厳し目のコメントをしたものの評価は4つ星にさせてもらいました。
いや、面白かったですもん。
今野作品とは今後長いお付き合いになりそうな予感がしています。

蛇足ですが、本作に登場するキャラクター、日本最大の保守政党内の「盛和会」ってまずくないですか?特に「盛和会」って漢字変えただけだし。