小説 こちら葛飾区亀有公園前派出所/秋本 治

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☆☆☆
こち亀30周年記念で日本推理作家協会の面々が、自分流にこち亀を書き下ろした短編集です。全体の感想としてはちょっとした暇つぶしや娯楽には丁度いいって程度の作品ですね。こち亀が好きで7人の作家のうち、好きな作家が2人以上いれば購入してもいいんじゃないでしょうか?

以下、1篇ごとの簡単な書評です。なお、星の数は本作内においての位置づけを示すもので、通常の星の数とは評価の基準が違います。

「幼な馴染み」大沢在昌 ☆☆☆☆
新宿鮫シリーズとのコラボです。両シリーズの絡み方が絶妙でした。残念ながら新宿鮫シリーズを未読なのでその分楽しみきれない部分はあったかもしれませんが。浅草を舞台に繰り広げられるショートストーリーですが、こち亀本編で登場しても違和感がないくらいの作品です。きっと大沢さんはこち亀が好きなんですね。両さんが両さんでした。

「池袋⇔亀有エクスプレス」石田衣良 ☆
池袋ウエストゲートパークシリーズとのコラボです。本作内ではダントツに出来が悪く短編なのに読むのが苦痛でした。両さんが両さんっぽくないし、単に自分の作品に「両津勘吉」という名前のキャラクターを出しただけですね。

「キング・タイガー」今野敏 ☆☆☆☆☆
個人的には1番好きな作品です。警察を定年退職した主人公が幼い頃に憧れたプラモ作りにはまっていく過程を描いた作品です。ほぼ全ての場面がプラモを作る中年男性と、プラモ屋でアドバイスを受けるシーンに終始します。
じゃあ何がこち亀?って。主人公が通うプラモ屋の常連で、そのプラモ屋に両さんの凄まじい作りこみのプラモが飾られているのです。主人公はまだ見ぬ両さんという、かつては同じ職業だった天才モデラーに対抗心を燃やしていくわけです。私自身はプラモを作ったことが無く、作品作り自体には関心を持てないはずなのですが非常に描写力があり、どうやってプラモが作られ、主人公が何でこんなに熱を上げていくのかって言う気持ちに凄く共感できました。
こち亀を全面に押し出した作品ではないですが、設定にらしさが伺え、その点にも好感が持てます。
とりあえずこれを気に今野作品を読んでみることにします。

「一杯の賭け蕎麦 ―花咲慎一郎、両津勘吉に遭遇す―」柴田よしき ☆☆
花咲慎一郎シリーズとのコラボです。こち亀っぽいエッセンスはありますが、「こち亀」のイメージを利用した人情物というところでしょうか。悪くはないし両さんっぽいのですが、この話の場合、逆に花咲慎一郎が全く必要ないですね。

「ぬらりひょんの褌」京極夏彦 ☆☆☆☆
どすこいと京極堂シリーズ、京極夏彦の2作品とのコラボです。全作品中こち亀を最も研究している作品です。出てくる細かいセリフやエピソードがこち亀好きならニヤッとしてしまう細かいこち亀薀蓄に触れられています。
ストーリーですが京極堂シリーズのプロットを利用していますね。京極堂シリーズをお読みの方なら、タイトルからしてシリーズを踏襲していることはお分かりでしょうが。勿論最後には憑き物落としが待っています。この作品は京極堂シリーズの後日談としても楽しめますよ。あの人は未だに中野で古書店をやっていて、お馴染みのキャラの今を語ってくれたりします。
唯一残念なのは、部長が妙に体育会系だし、寺井が何でか生意気な若者みたいな喋り方になってしまっています。狙ってやったのかもしれませんがかなり違和感はありますね。

「決闘、二対三!」逢坂剛 ☆☆
御茶ノ水警察署シリーズとのコラボです。両さん、麗子VS梢田、斉木、五本松である勝負をします。こち亀のキャラはちゃんとこち亀っぽい仕上がりですし、コラボとしてはまずまず優秀かもしれませんが、ストーリーがいまいちです。短編でミステリーとコメディを両立させたかったのでしょうが、少々中途半端でした。

「目指せ乱歩賞!」東野圭吾 ☆☆☆
乱歩賞の賞金と印税を耳に入れた両さんがたった1日で乱歩賞作品を書き上げるべく奮闘するお話です。こち亀の通常連載にあってもおかしくないほどこち亀らしい作品ですね。秋本治に漫画で書き下ろしてほしいくらいです。
ただ、どうでしょう?ただこち亀を書くだけなら、秋本治が書くのが1番良いわけで…。ボチボチの出来のこち亀、という印象は否めないですね。勿論悪くは無いんですが。ミステリー作家東野圭吾として入れたエッセンスが乱歩賞だけだった、というのは残念な気がします。湯川先生とのコラボまでしなくてもいいですが、もう少し独自性はほしかったですね。