13階段 (講談社文庫)/高野 和明

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☆☆☆☆
強盗殺人の罪で死刑を宣告された樹原亮。しかし彼には犯行時刻の記憶がなかった。執行を目前に控え苦悩にくれる樹原亮はたった1つの記憶を蘇らせた。その記憶は「階段を上っていた」。その記憶だけを頼りに元刑務官南郷正二と南郷がを勤めていた刑務所から仮釈放した三上純一が樹原亮の冤罪を晴らすために捜査を始めた。

この作品は2つ読みどころがあります。
1つ目が「法」を考える契機を与えてくれると言うことです。例えば刑罰は加害者によって被害を追った者やその関係者に変わって復讐するために存在する、と考える応報刑論と刑罰は犯罪を抑止するために存在する、と考える目的刑論、この2つの考え方にはいずれにも正しさがあります。また死刑制度には論理的にも感情的にも、あるいはそれを執行するシステム的な部分にも様々な問題があります。こういったある程度専門的な領域に関する話が非常に分かりやすく、そして話に無理なく溶け込んでいます。エンタメ作品ではありますが問題意識を投げかける良書と言えるでしょう。巻末には参考文献も記されていますので死刑制度などについて学ぶきっかけを作ってくれる本ということも出来ると思います。

もう1点は良作のエンターテインメント作品であることです。こちらは先に挙げた点と比べればまだまだ粗が目立ちますが、それでも複線の回収や二転三転する展開は中々見事で飽きさせずに最後まで読ませられました。

この作品は江戸川乱歩賞を受賞した作品なのですが、乱歩賞は野沢尚の「破線のマリス」など良作社会派サスペンスが多いような印象ですね。

この作品に関して1点だけ気になったのは少々エンタメ作品にしすぎたかな?という点ですね。テンポよく最後まで読めるという意味では決して悪いことばかりではなかったのですが、アクションシーンが出てきたり、やたらと事件が多かったり、元刑務官南郷正二がハードボイルドなキャラクターになっていたりと、若干やりすぎな印象は受けました。その結果逆に冷静になってしまう部分があったりもしましたね。まあ高野和明さんが元々映画の脚本などをされていた、ということなので映像的に作ってしまう傾向があるのかもしれませんね。映画やドラマであればあのくらいの動きはあっても良かった気はしますし。

巻末の宮部みゆきさんの解説によれば本人も宮部さんも映像化された作品はあまり気に入られていない様子ですが個人的には見てみたい気になりましたね。宮部さん自身が書いているように原作者の満足度と映画の出来は比例しませんし。スティーブン・キングの作品なんかが良い例ですね。
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