魔王 (講談社文庫)/伊坂 幸太郎

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☆☆
会社員の安藤は弟の潤也と二人で暮らしていた。自分が念じれば、それを相手が必ず口に出すことに偶然気がついた安藤は、その能力を携えて、一人の男に近づいていった。五年後の潤也の姿を描いた「呼吸」とともに綴られる、何気ない日常生活に流されることの危うさ。新たなる小説の可能性を追求した物語。 (amazonより)

久しぶりに伊坂の書評です。
しかし残念ながら私的伊坂ランキング最下位です。これまで最低でも3つ星をキープしてきてつくづく平均点の高い作家だな(平均点だけじゃなく傑作も多いです)と思っていたのですが、これは少々残念でしたね。

見る間に人々の支持を集め、総理待望論を巻き起こす若き少数野党の代表、犬養。彼の周囲に渦巻く熱が、日本中に伝播するのに呼応するかのように、安藤の周囲には違和感を伴う出来事が次々に起こり出していく。本作は2編で構成されており、1編目の「魔王」は物語がクライマックスに差し掛かったな、というところで終わります。1編目では引っかかりを感じさせられるポイントが複数あるので、2編目の「呼吸」でその辺りが明らかにされることを期待していると、2編目は文学作品的なフワッとした終わり方をしてしまうんですよね。文学的な雰囲気が悪いわけではないのですが、序盤がかなりエンタメ要素が強いので、そこで振られたイシューを回収してほしかったなという思いは強いです。

あとは全編通して展開される政治ネタに関しては知識不足を感じますね。それでも大風呂敷を広げるのではなく、必要最小限の知識を物語に溶け込ますという意味では、無意味にうんちくを披露したがる作家よりは余程ましですかね。村上龍の「愛と幻想のファシズム」のようにあるカリスマ政治家が階段を駆け上っていく様を描くのではなく、世間がファシズムに流れている空気感を描いた視点と、それを描く能力は見事でした。この作品に関して評価できるポイントはそこに尽きますね。

次は続編の「モダンタイムス」を読みます。
モダンタイムス (Morning NOVELS)/伊坂 幸太郎

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