告白/湊 かなえ

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☆☆☆☆
我が子を校内で亡くした女性教師が、終業式のHRで犯人である少年を指し示す。ひとつの事件をモノローグ形式で「級友」「犯人」「犯人の家族」から、それぞれ語らせ真相に迫る。選考委員全員を唸らせた新人離れした圧倒的な筆力と、伏線が鏤められた緻密な構成力は、デビュー作とは思えぬ完成度である。 (amazonより)

ようやく読みました。文庫化を待つつもりでいたのですが、家族が購入していたので拝借しました。
私は長編小説と勘違いしていたのですが、連作短編なんですね。それ以外でも勘違いしている人がいると思われることについて書いておくと、議論による犯人探しなどをしていくミステリーテイスト作品ではないのでお気をつけください。この辺の情報はすでにネットで溢れていますが、ミステリーではなくかつ、いずれの短編も鬱なエンディングを迎えます。

さて帯やポスターなどに書かれている
「愛美は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです。」
というセリフが登場する、被害者の母の告白は連作短編の第1章「聖職者」です。2章以降は事件を振り返りながらも女教師の告白以降を関係者が独白していくストーリーとなっています。

本屋大賞を筆頭に非常に評価の高い本書ですが、第1章「聖職者」を読んだ直後は私も「うまい」「ヤラレタ」と感じました。序盤を読んでいる限りは子供が殺されたというのに、社会問題にまで言及する持って回った演説に少々イライラするのですが、読み進めるうちにそういった議論がどんな意味を持っていたのかが見えてきます。何より生徒を突き放したようにタンタンと語る女性教師の演説が向う終焉は同時に読者をも突き放すほど強烈なものです。ちなみに私はこの時点では完全に5つ星をつけるつもりでいました。

評価が星1つ分下がったのはこれ以降の5章が蛇足にしか思えなかったからです。1章があまりに強烈かつ見事であるために、事件やその後を説明したり語ったりする必要はなかったのです。むしろそのために完璧に見えた1章ですら印象が弱まりました。つまりこの話は短編で終わるべきものでそれを補足するようなものを書くべきではなかったのです。そのような事情からどれだけ良いものを書いたとしても2章以降は評価に値しないのですが、その点に目をつぶったとしても1章とそれ以降の章には質的な違いがあります。

勿論2章以降が質的に落ちるわけですが、ポイントを簡潔に書くと、2章以降で主役として登場する生徒たちがあまりにステレオタイプに描かれすぎています。自己評価が過度に高い少年や、ネットのカリスマに憧れる少女など、ありがちなものでリアリティーを欠いています。
あわせて大きな減点ポイントとなったのは最終章で迎える作品全体のエンディングですね。ネット上では救いがない、という理由で批判を浴びているようですが、私はそれは構わないと思います。というよりは救いのない作品は救いがない形で終わるべきで、それを無理やり良い話にすると当然無理が生じ作品のクウォリティーが落ちます。私が気になったのは鬱エンディングの是非ではなく、ラストで使われるある道具です。確かにあのエンディングは「彼が手を動かすことによって事態が動く」という点が救い難い結末を演出し、物語として非常に見事な締めとなるわけです。
しかしやはり中学生があれを、と考えるとやっぱりちょっと白けてします。すいません、ネタばれを避けるために分かりにくい表記になってしまいますね。要はエンディング付近で中学生が使用する、ある物があまりに現実的ではないということが言いたいわけです。小説なので非現実な物が登場すること自体は悪くないのですが、この作品にあれが登場するのは違和感があるんですね。
分かりやすく言えば「トランスフォーマー」にまだ実用化されていないような兵器が登場することは構わない、どころかむしろ作品を盛り上げるのに一役買うわけですが、「グラン・トリノ」のウォルト・コワルスキーがマシンガンを使い始めたらやっぱり白けてしまうわけです。それは実在するとか、どうにかすれば手に入るとか、知識さえあれば作れるとかという問題ではなく、それがその世界に合致するリアリティーを持っているかということなわけです。その理屈で言うと、ん~、あのエンディングはもうちょっと違う方法があったのでは、と思ってしまうわけです。

まあ何だかんだ言いましたが全体通しても4つ星は十分与えられるレベルですし、1章だけ見ればこれ以上ないというほどの傑作ですので是非です。

少女はあまり評判は良くないですが、こちらは中々良いみたいです。
贖罪 (ミステリ・フロンティア)/湊 かなえ

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