幻夜 (集英社文庫 (ひ15-7))/東野 圭吾

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☆☆☆☆☆
白夜行の続編です。これ単体でも読める作りにはなっていますし、「幻夜」→「白夜行」という読み方も可能ですが、まず白夜行を読んでおくことをお奨めします。以下では「白夜行」の内容について一部ネタバレしますので「白夜行」を未読の方は読まれないほうが良いかもしれません。


前作の主人公の1人雪穂のその後を描いたのが本作です。本作で雪穂は美冬を名乗っておりますし、ストーリー内でもはっきりと続編とはかかれておりませんが、まあ2作を読んだ方であればそれを疑う方は少ないかと思います。また作者の東野圭吾自身も半ばそれを認めるコメントを出しておりますので、まず間違いないと考えてよいかと思います。
さて、基本的に雰囲気やストーリー展開は「白夜行」を踏襲している本作ですが、1点のみ大きな違いがあります。
それは亮司亡き後本作で美冬とパートナーとなる雅也の内面が描写されていることです。前作の亮司はその内面が描かれなかったことであまりに超然としている印象を受けました。今作の雅也は悪事に手を染めながらも葛藤し苦しんでいく様子が描かれ感情移入をしながら読むことが出来ます。同時に雅也の内面が見えるからこそ比較して美冬(=雪穂)の残酷さ、強さが前作以上に鮮やかになります。

さて今作の感想ですが、前作同様傑作と言えるとは思いますが、ハードボイルド、と称した前作と比べると若干強さに欠けます。勿論前述した雅也の内面描写があるため美冬の強さは見えるのですが、作品全体としてみた場合心理描写が全くないままに展開されてた前作の方がインパクトは無くともタンタンと冷酷な計画が進められていく、という強さや硬さが感じられ、より強固な作品であったように思います。また、ミステリーテイストも前作の方が強く読者を先へ先へと引っ張っていく力がありました。致命的なのはエンディングでいくらなんでもあんなに美冬(=雪穂)の計画どうりにことが進むということは考えにくいように思いました。少々ご都合主義的過ぎるエンディングでしたね。

今作についてはもっと書きたいことがあるのですが、両作のネタバレが随分入るのでそれについては次回に「白夜行」「幻夜」比較論、と言った形で書こうと思うのでお読みなっていただければ幸いです。