Q&A (幻冬舎文庫)/恩田 陸

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☆☆☆☆
郊外のショッピングセンターで事件とも事故ともつかぬ不可思議な出来事が起きる。
多くの死者と、負傷者を出した大惨事ではあるが、事件発生現場の特徴から事件の真相を知ることは容易に思われた。凶事が起きた瞬間、正にショッピングセンター内にいた数多くの客。事件を聞きつけ集まったマスメディアと野次馬。現場処理に当たった警察、消防。更には事件を冷静な眼差しで記録し続ける防犯カメラ。
しかし食い違う証言、決定的な何かを記録することのなかった防犯カメラ、事件の痕跡すらうかがえない発生現場。あそこで何が起きたのか?警察、マスメディア、事件に関心を抱いた一個人、全貌の見えない怪しげな、しかし強固な力を持つ団体。多くの人が、更に多くの人々から情報を得ることによって徐々に浮かび上がる事件の全体像。だがそれでも決定的な何かは分からない…。

このような書き方をするとミステリー要素の強い、ハリウッド映画や海外ドラマのようですね。しかし、この作品は良くも悪くも恩田陸の作品です。彼の作品に明確な答えや正しいミステリーのあり方を求めるのは無謀、というモノです。
ストーリーは冒頭に書いたとおり、大型ショッピングセンターで起きた事件を誰かが誰かにヒアリングする形で進行しています。当然のことながらそれぞれの登場人物が見ている景色は別々のものですが、重複する場面や組合わせて考えると浮かび上がる新たな事実などがあります。こうして徐々に事件が見えかかってくると、話はフッと新たなステージへと飛んでしまいます。このブログではネタばれは避けて書いておりますので、冒頭のストーリー紹介にも証言の内容は一切入れませんでしたが、これだけは書いておきます。本作内で事件を細部まで追う事はされませんし、事件の真相も解明されません。読んでいれば恐らくはこういうことだったんだろうという結論には達しますが、スッキリとする落ちや、騙された!!といった良作ミステリーによって得られる快感を期待される方は読まないほうが吉です。

恐らく本作で作者がしたかったことはミステリーを作ることでなく、人の心を描くことです。それも、出来るならば見たくない人間の心です。パニックが起こった現場、その事件前後で目撃者が見た光景は人の心の脆さや儚さ、そしてそれが生み出す極めて危険な人の心の姿です。作者は本作を通して人=自分を改めて見つめる恐さや、人の持つ恐怖と狂気を描きたかったのだと思います。

ミステリーとしては3つ星
パニックムービーとしては4つ星
ホラー映画としては4つ星(いわゆるお化けが出てくる訳ではありません。キングのミザリーがホラーであるように本作もホラーなのです)
そして文学作品としては3.5星って感じですかね。
この評価を見てなお読みたくなったのなら読んでみてください。あなたが期待するものがスリリングなそれでいて退屈なミステリーでないのなら、本作は傑作と言えます。