どちらかが彼女を殺した (講談社文庫)/東野 圭吾

¥620
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☆☆
最愛の妹が偽装を施され殺害された。愛知県警豊橋署に勤務する兄・和泉康正は独自の“現場検証”の結果、容疑者を二人に絞り込む。一人は妹の親友。もう一人は、かつての恋人。妹の復讐に燃え真犯人に肉迫する兄、その前に立ちはだかる練馬署の加賀刑事。殺したのは男か?女か?究極の「推理」小説。(amazonより)

ドンドン読み進めてます、加賀恭一郎シリーズ第3弾です。
今作では妹の復讐のため、犯人を捜す被害者の兄が探偵役を務めます。ではこのシリーズの主役であるはずの加賀恭一郎は何をするのかと言えば、被害者の兄とは別のアプローチで事件を調査し彼を止めようとするわけです。本書の特徴はもう1つあって、容疑者となる2人のうちどちらが犯人かは最後まで明かされません。つまり読者は作中にちりばめられたヒントから犯人を予測することを楽しめる(強いられる)わけです。

一見すると面白い構造とアイデアを持った小説に見えますが、評価はいまいちです。せっかく犯人を追う被害者の兄に対し先回りする加賀という面白い構図を作っているのに、加賀は兄とは全く別のラインから操作をし、時折現れ、調査していることを匂わせるだけなんですね。これまで主役を務めていた加賀が、今作では主役の敵役に回るような新しいパターンを作ってきているので、お互いが裏をつくような展開が続くとどんでん返しも出てきてストーリーも盛り上がったと思うんですけどね。実はストーリー最終盤にしつこいくらいにどんでん返しが起きるんですがそれが「こうだった」、「いやこうだった」、「実はこうだった」と単に読者の知らない新事実を引っ張り出すだけなので、物語内では驚きがあったとしても、読者に与えるインパクトが小さいんですね。多少、今までで降ってきた複線を回収するような場面もあるんですが、ラスト間際まで新事実をためすぎな上にしつこいですね。
またエンディングまで真犯人を明かさない形も斬新なようですが、結局のところ最終的に名前を語らないだけですからね。確かにそれまでに与えたヒントだけで読者が推理できるような構造というのはそれはそれで見事ではありますが、ネタばれサイトなどではお馴染みなように決め手となる事実を活用してどちらかが殺したと見せかける偽装工作、あるいは他殺と見せかける形で自殺をしたというのも合理的な回答となってしまい、いまいち弱いです。


内容的にもあれだけのことをされた被害者の兄が最後に取った行動は少々説得力に欠けますし、また彼の行動全てを加賀が容認したとしてもあの場にいた人間が黙っちゃいないでしょう。という意味で物語的な弱さも気になりました。

次がようやく、このシリーズ最高傑作と名高いこれです。
悪意 (講談社文庫)/東野 圭吾

¥660
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