女王の百年密室―GOD SAVE THE QUEEN (新潮文庫)/森 博嗣

¥820
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☆☆☆☆
2113年の世界。小型飛行機で見知らぬ土地に不時着したミチルと、同行していたロイディは、森の中で孤絶した城砦都市に辿り着く。それは女王デボウ・スホに統治された、楽園のような小世界だった。しかし、祝祭の夜に起きた殺人事件をきっかけに、完璧なはずの都市に隠された秘密とミチルの過去は呼応しあい、やがて―。神の意志と人間の尊厳の相克を描く、森ミステリィの新境地。 (amazonより)

S&Mシリーズから始り真賀田四季を中心に回る作品は全て読んでやろうという意気込みとともに森博嗣読みつくしにかかっております。
正直なところ最近読んだ作品は何だかな~という物が多くテンションが落ち込み気味だったのですが、この作品を読んで久々に上がりました。

設定は100年後の世界ということですが、その時代の科学から取り残された町が舞台ということで先端科学のようなものは主人公が所持するものだけで、案外のどかな感じです。作品全体を通しての感想としてはミステリーとしては2流ですが、SF、ファンタジーパートが良く書かれており、引き込まれます。
一応殺人事件は起こりミステリーの様相を呈するわけですが、比較的推理しやすいトリックと、極めてテクニカルな予測不可能なトリックが併設されており、いずれも評価し難いという点では推理小説を期待されると落胆させられるでしょう。一方のSFパートは架空の町を支配する宗教観や倫理観、制度設計まで含めてよく出来ているばかりか、哲学的な思索にまで至らせる出来様でこちらはポイントが高いです。

また森博嗣フォロワーの方にとっては毎度のことですが、本筋と思われていた事件に対するトリックなどの作りこみは精度の高いものではないですが、代わりに物語り全体を揺るがすようなトリックが最終盤で明らかになります。ちなみに明らかになるあるトリックは四季シリーズ「四季 冬」でその裏側が描かれていますので、本作を読後に読まれるとより一層楽しめるかと思います。(四季シリーズ後半は単独作品としては読めたものではないですが関連作を読んだ後に読み返したくなりますね。)