噂 (新潮文庫)/荻原 浩

¥660
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☆☆
「レインマンが出没して、女のコの足首を切っちゃうんだ。でもね、ミリエルをつけてると狙われないんだって」。香水の新ブランドを売り出すため、渋谷でモニターの女子高生がスカウトされた。口コミを利用し、噂を広めるのが狙いだった。販売戦略どおり、噂は都市伝説化し、香水は大ヒットするが、やがて噂は現実となり、足首のない少女の遺体が発見された。衝撃の結末を迎えるサイコ・サスペンス。(amazonより)

以前、ご紹介した我孫子武丸の「殺戮にいたる病」と並ぶ驚愕の1行系作品です。
これは「殺戮にいたる病」の書評でも書いたことなのですが、こういったどんでん返し系作品は、どんでん返し系作品として有名になってしまうと、どうしても興をそがれてしまいますね。この作品に関しては帯で「驚愕のラスト1行」と書いてしまっているので自業自得なのですが。この作品の場合、それが特に致命的な感じです。「殺戮にいたる病」は、どんでん返し系作品と知って読まなくても、どんでん返しがあることが容易に推測できる作品でした。詳細は「殺戮にいたる病」の書評をご覧いただきたいのですが、あちらの作品は冒頭から犯人の名前、犯行手法、動機が明らかになっているので、何かしらがひっくり返されない限りはミステリーとしては成立しないわけです。ところがこの作品は通常のミステリーの手順を踏んでいくので、更に最後の落ちがあることは想像できないのです。つまりあちらが正当なミステリーの落ちとして衝撃の1行があるとするなら、こちらの衝撃の1行はホラー映画や怪談話などでいうとどめの「ドーン!」や「わっ!!」という役割を果たすパートなんですね。それを事前に「最後でわーってやるからね」と言われて読むと驚きが半減してしまうわけです。

さて本格的な書評に入りたいのですが、上で述べたことがこの作品においての全体も現わしてもいます。何が言いたいかと言えば衝撃衝撃、と言われているラスト1行は結局のところ「ドーン!」でしかありません。もう少し丁寧に説明するなら、そうである複線や必然性がまるでない落ちなんですね。つまり驚かすためだけに入れたというのがあからさまなわけです。あれを入れるのであれば、せめてそのための伏線くらいは用意しておく必要はあったのだろうと思います。

一応落ち以外の部分についても言及しておくと、とにかくミステリーとしての作り込みが浅いです。落ち同様犯人が犯人である必然性、つまり動機付けや、伏線、トリックの明かされ方などがいずれも曖昧であったり、唐突であったりして、説得力や面白みに欠けています。また若者の携帯文化の描き方などが全体的に浅はかなのも少し気になりましたね。これは作品全体の作り込みや空気感などに共通した問題でもあります。

この作品で良いな、と思えたポイントは主役2人、親子の関係性や描き方、更には不気味な噂が現実になるという着想です。冒頭に例の噂の台詞が入り、エンディングは原作の通りの会話で締めれば、綺麗な映像化作品になりそうな感じです。例の噂を真っ暗な画面にセリフだけで語らさせるところから始まるホラーテイストのCMなんか目を閉じれば浮かんできますしね。映像化向きな作品だと思います。
もう1つ面白かったのは口こちを使った広告手法とミステリーを重ね合わせた点です。ただしこの作品だと噂を考えた人間が犯人である必然性が弱いので、容疑者をプロモーション関係者に絞り込む根拠がかなり薄弱ですし、犯人が考えた噂が通るかどうかは偶発性に左右されすぎるので計画として問題がありすぎます。この辺をうまいこと作って情報操作と噂とミステリーを組み合わせればもっと良い作品になったと思うのですが、残念です。

ちなみに未読者の方のために書いておくと、この作品あくまでミステリーでありホラーではありません。恐がらなくても大丈夫です。あまりいないとは思いますが既読者でラスト1行の意味が分からなかった方のために書いておきます。あのセリフを言うのは特定の誰かしかいません。それが誰か考えてみてください。ネタバレは出来ませんので名前は出せませんが、性別と年齢は推測できますよね?ここまで書けば分かるでしょう。


衝撃の結末作品たち
慟哭 (創元推理文庫)/貫井 徳郎

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殺戮にいたる病 (講談社文庫)/我孫子 武丸

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十角館の殺人 (講談社文庫)/綾辻 行人

¥620
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