おかしな二人―岡嶋二人盛衰記 (講談社文庫)/井上 夢人

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☆☆☆☆☆
一時代を席巻したコンビミステリー作家、岡嶋二人の結成から解散までをコンビの片割れ井上夢人が描いた自伝。

私が岡嶋二人にはまっていたのは4年ほど前のことだった。当時「99%の誘拐」が平積みされ、それを手に取ったのが始まりだった。非常にテンポがよく納得がいき、それでいて驚きを与えてくれるこの作家にはまりこんだのだ。正直、感動や知識や哲学的なテーマを与えてくれるわけではないこの作家の作品は、私にとっては時間つぶしに丁度良い作品だった。分量も2~3時間もあれば読みおわる程度で、一時期は電車の中では必ずといっていいほど彼らの本を開いていた。
本作「おかしな二人」に出会ったのは岡嶋二人作品を3分の1ほど制覇した頃だった。原作、作画、と明確に分けられるマンガと違い、小説における分業体制のあり方には常々気になっていた。しかし冒頭の井上夢人のコメントを見てこの作品は4年の間、本棚に居座ることとなった。
「この書籍の中では作品を描く工程も描かれている。モノによってはトリックから膨らまして書き上げた作品もある、そういった都合上、岡嶋二人作品のネタバレなしには本書を描くことは出来なった」
当時岡嶋二人を全制覇する気でいた私は、このコメントをみて本作を読むのを先送りにした。結局彼らの作品を3分の2ほど読み終えたところでそれ以上追うことは止めてしまった。特別なきっかけがあったわけではない。背表紙を読んでも興味を惹かれる作品がなくなってきたのである。それでも機会があればまだ読み続けようと思ったまま気づけば4年が経過していた。

そこで先日ついにこの本に手をつけてみた。率直な感想として岡嶋二人にどの作品よりも面白かった。

序盤~中盤で主に展開されているのが乱歩賞獲得までの道のりである。どんな経緯で作家を目指すこととなったか。どんな風にしてトリックを思いつき、それをどのような議論でストーリーに落とし込んでいったのか。人物描写やストリー展開のトレーニング方法。当時のメモなどを振り返りながら非常に生々しく描かれたこのパートは作家を目指す人が読めば非常に参考になるはずである。またそうでなくてもミステリーのトリックが如何にして生まれ、それがどのようにストーリーと合わさっていくのか、合作であったためにその工程が頭の中ではなく実際の議論の記憶やメモとして残っているためとても分かりやすく、何より興味深い。

中盤~後半で描かれるパートは作家がどんな形で仕事を振られ、どんな工程で作品を練り上げていくのか、されが締め切り絡みの殺伐とした雰囲気の中で描かれていく。合わせて、仕事上のパートナーとしての岡嶋二人に傷が入り、遂に決裂までにいたる過程が描かれている。解説で大沢在昌が書いているようにさながら恋愛の終わりを描いたように感じさせるパートでもある。

さて本書を読んだ上での岡嶋二人作品についての感想だが、私が岡嶋二人作品で良いと思ったパートは井上夢人によって描かれたものであったことが分かった。
私が岡嶋二人作品の中でも特に好きな「クラインの壷」と「そして扉が閉ざされた 」は実質井上夢人1人でかかれたこと。傑作ではあるが最後のスキーの部分が余計だな(読んだ人にしかわかりません)と思っていた「99%の誘拐」のスキーパートは徳山諄一によって考えられたパートであったことなどがその根拠だ。(勿論、これは好みの問題なので徳山諄一の才能に疑問符をつけるものではない)
また本書を読むと、当時作品化されなかったアイデアが井上夢人個人名義の作品である「プラスティック」などの原型であることが推測できると思う。

※この本は非常に面白い本です。ただしこれをいきなり読んでしまうと岡嶋二人作品は楽しめなくなってしまいます。本作に手をつける前に是非1作、2作岡嶋二人作品を読んでみてください。



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