犯罪小説家/雫井 脩介

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☆☆
新進作家、待居涼司の出世作「凍て鶴」に映画化の話が持ち上がった。監督に抜擢された人気脚本家の小野川充は「凍て鶴」に並々ならぬ興味を示し、この作品のヒロインには、かつて伝説的な自殺系サイト「落花の会」を運営していた木ノ瀬蓮美の影響が見られると、奇抜な持論を展開する。待居の戸惑いをよそに、さらに彼は、そのサイトに残された謎の解明が映画化のために必要だと言い、待居を自分のペースに引き込もうとしていく。そんな小野川に、待居は不気味さを感じ始め――。(amazonより)

雫井脩介の本は「犯人に告ぐ」「クローズド・ノート」に続いて3冊目です。(「犯人に告ぐ」を読んだのは書評を始める以前なので書評としては2冊目ですが)共通した感想は「強引過ぎる」です。

主人公は3人。
文学賞を受賞し、映画化も決定した「凍て鶴」の作者待居涼司。
新進気鋭の人気脚本家であり「凍て鶴」で監督デビューも決定している小野川充。
そして小野川充に「落花の会」についての情報提供を依頼された、ネット自殺関連の著作を持つ若きノンフィクションライター今泉美里。

冒頭のあらすじで示したように小野川充は作者である待居涼司が否定しているにもかかわらず「凍て鶴」の中に自殺サイトのカリスマ的運営者の影響がみられると語ります。そのロジックが読んでいて全く納得できないんですよね。おそらくそれが作者の狙いで「偏執的だろ?ほら気持ち悪いだろ?不気味だろ?」ってことなんでしょうが、気味が悪いというよりもイライラする論理展開でいまいち作者の意図どおりのリアクションができませんでした。というのも作中に登場する「凍て鶴」のあらすじを読むと、自殺サイトとの関連がないことは明白なのです。作者は全く関連性のない者どうしを強引に結びつける不気味さを演出したのでしょうが、あまりに無関係すぎてリアリティーを感じないんですよね。例えば「凍て鶴」とそのサイトに細々としたものでもつながりが見えれば、(作中作の)作者が気付かないうちに事件の重要な部分に触れてしまっているとかなんとか、色々と想像させて、この脚本家が何かを企んでいるのかも?と考え、知らず知らずのうちに踏み込んではならない部分に触れてしまう可能性があることを感じ恐怖を覚えることもできます。ところが今回はそういった要素があまりにないので、すでに複数の脚本が作品化され、まともに仕事をしている人気脚本が無意味に変なことはしないだろう、という感覚であまり怖くないんですよね。しかもこの脚本家自体不気味というよりは強引でチーム・バチスタの栄光シリーズの白鳥なんかを連想させるキャラなのでなおさらです。

後半に入るとノンフィクションライターの今泉美里までどこからギャラが発生するわけでもないのに古い自殺サイトの調査に掛りきりになってしまったりして、こっちはこっちでおいおいいくらなんでも不自然だろ?という感じです。

作者の狙いとしては「わけがわからない」という部分で不条理さと恐怖感を演出したのでしょうが、これは間違いです。人間は共有できる部分があるからこそ、「自分にも降りかかるかも?」「こんな些細なきっかけがこんなことにつながってしまうのか」とリアリティーをもって恐怖を感じてしまうのです。全くの大嘘を書けばリアリティーを感じることもなくその恐怖感も薄っぺらいものになってしまいます。一応文章の上手さや、部分部分で真相に迫っていく面白みはあるので2つ星は与えられますが、全体を通してはあんまりなプロットですね。

やっぱりこの作者の傑作と言えば「火の粉」みたいですね。
次はこれにします。
火の粉 (幻冬舎文庫)/雫井 脩介

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