薬指の標本 (新潮文庫)/小川 洋子

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☆☆☆☆☆
楽譜に書かれた音、愛鳥の骨、火傷の傷跡…。人々が思い出の品々を持ち込む「標本室」で働いているわたしは、ある日標本技術士に素敵な靴をプレゼントされた。「毎日その靴をはいてほしい。とにかくずっとだ。いいね」靴はあまりにも足にぴったりで、そしてわたしは…。奇妙な、そしてあまりにもひそやかなふたりの愛。恋愛の痛みと恍惚を透明感漂う文章で描いた珠玉の二篇。(amazon)

今月、1作目の書評です。そしていきなりの5つ星です。二篇しか収録されていない短編集で、かつ1つあたりのページ数は100ページもない、そんな作品に5つ星をつけていいものなのだろうかどうか、相当迷いましたが、自分の気持ちに素直に従うことにしました。

小川洋子作品はこれまでに「博士の愛した数式」「猫を抱いて象と泳ぐ」の2冊を読んでいるのですが、いずれも児童文学に通ずるような温かみに満ちた作品でした。2冊を読んで2冊ともがそのような雰囲気だったので、それこそがこの人の作風だと思っていたのですが本作は随分とテイストが違いました。一言でいえば抽象的な文学作品ですし、残酷さや痛み、ある種のエロティシズムまで薫る作品です。ん~油断していたな。考えてみれば 「猫を抱いて象と泳ぐ」にはそういった雰囲気がほのかに漂っていたし、書評にもそんなこと書いたんですよね。本作はその薫りが全面に押し出た作品です。
分かりやすく言えば村上春樹の長編の1パートのみを切り取ったようなテイストですね。彼の短編とは違うのですが、引き延ばしたとしても彼の長編ほどの大きさはない作品という感じです。例えば唐突に遭遇する信じがたい何かを登場人物も読者すらもあっさり受け入れさせる独自の空気感であるとか。消失を伴う出来事であるはずなのに、それを受け入れることが極めて自然なことであるかのような物語であるとか、そんなテイストが村上春樹に通じるなと思いました。

短編なのであらすじは書けませんし、あんまりああだこうだ言う作品でもないので私なりに本作をまとめると

「静謐」な空気の中で「唐突」に押し寄せるモノゴト、そして彼らは「消失」していきます。


フランスで映画化されたみたいです。作品のテイスト的にフランス映画は合うと思うので凄く観たいです!!
薬指の標本 SPECIAL EDITION [DVD]

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以前、村上春樹の80Pに及ぶロングインタビューが収録されているということで紹介した雑誌ですが、小川洋子の長めの対談も収録されています。
モンキービジネス 2009 Spring vol.5 対話号/柴田 元幸

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