アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)/伊坂 幸太郎

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☆☆☆☆
引越し早々、隣人河崎から広辞苑を盗むために「本屋襲撃」の協力を依頼された僕(椎名)。
その2年前、河崎と琴美、ドルジは続発するペット殺し事件に巻き込まれていた。
現在と過去との話が交互に展開され、やがて2つ事件は繋がり始める。果たして「本屋襲撃」の持つ意味は…。

毎度毎度、伊坂幸太郎作品を書評するときは、「この作品はミステリーではない!」と言い続けてきましたが、今作はミステリーとしても成立している作品です。とは言ってもそれがメインイシューではないと思いますが。

過去パートで展開していくペット殺し事件がらみのストーリーは迫りくる悪意を描いたサスペンステイストですし、現在パートでは「本屋襲撃」という(どうも村上春樹の「パン屋再襲撃を思い出しますね)まるで理由の分からない事件が展開されます。本作ではこの2つをつなぐある叙述トリックが用意されており、それがいわゆるどんでん返しになります。

当然、それを成立せしめるための複線も多数用意されているのですが、そのほとんどがセリフというのが如何にも伊坂幸太郎らしいですね。序盤に登場したセリフが、後半で再び登場する、これは伊坂の定番の手法なのですが、今作ではそれが特に強く活かされています。
過去に誰かが話していたセリフが現在で別の人間が話すことにより、その2人が繋がっていたことが分かったり、という形で複線になっています。とは言っても、2度目にセリフが使われる時点では、それによって判明する事柄は既に分かっている、ということがほとんどですので、やはり推理しながら進めていくミステリーという観点から言えば不完全ですし、そもそもそういった狙いではない、ということが分かると思います。どちらか、と言うまでもなく、ミステリー的な視点からそういった手法を利用した、と考えるよりは物語としての効果を狙って使った、と考えた方が自然です。

しかし、伊坂幸太郎、セリフの使い方が本当に上手いですね。
序盤に何気なく出てきたセリフが後半では物語そのものを表現していたり、心に刺さるセリフになっていたり。
勿論作者が意図して書いているので当たり前のことなんですが、作品に没入していると、まるで神様が作り出した粋な演出、と感じられるほどです。

そう言えばこの作品、映画化されてるんですね。瑛太やら松田龍平やらが出て。
叙述トリックを使っているわけだから映像化は難しい気がするんですが。
wikipediaを見たら「謎の男」とかいうわけの分からない役があったんでそれが上手いこと話をつないでいるんでしょうね。
どうやって映像化したのか、という興味の一点だけで観てみたくなりました。
しかし、重力ピエロも映画化されるみたいですし伊坂さん絶好調ですね。
そっちは主演加瀬亮ってことです。なんか瑛太とか加瀬亮とかその感じの俳優さんが使われる傾向みたいですね。まあイメージは合ってると思いますが。
割と多作で映像化が増えてきてますから、東野圭吾並に稼ぐ日も近そうですね。



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