四度目の氷河期 (新潮文庫)/荻原 浩

¥820
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☆☆☆☆
小学五年生の夏休みは、秘密の夏だった。あの日、ぼくは母さんの書斎で(彼女は遺伝子研究者だ)、「死んだ」父親に関する重大なデータを発見した。彼は身長173cm、推定体重65kg、脳容量は約1400cc。そして何より、約1万年前の第四氷河期の過酷な時代を生き抜いていた―じゃあ、なぜぼくが今生きているのかって?これは、その謎が解けるまでの、17年と11ヶ月の、ぼくの物語だ。(amazonより)

新年一発目の書評は荻原浩さんの作品。
あらすじを読むと恐らくちょっとしたSFやファンタジーテイストな作風を想像されると思うけれど(少なくとも私は想像しました)、実際に読んでみれば良くも悪くもそんな小難しい作品ではありませんでした。大筋だけ書くと実にシンプルな構造で、ふとしたきっかけから、自分の父親を約一万年前に生きたクロマニヨン人と勘違いした母子家庭の少年の青春物語です。あらすじだけを読むと「氷河期」「クロマニヨン人」というギミックが大きく活かされた作品であることを想像しますが、これはむしろ彩りにすぎません。はっきり言ってこの少年はクロマニヨン人の息子ではありませんし、それは読み出していけば比較的すぐに分かります。そんなわけで正直あまり適切なあら筋ではありませんね。

この小説はあくまで1人の少年が青年へと成長していくまでの青春物語です。その過程では様々なことにぶつかり、それなりに重厚で人間的なテーマも取り扱われます。それをありがちでなく、重苦しくなく、退屈でなく変えてくれるのが「クロマニヨン人」というギミックです。個人的には非常に巧い手口だったと思いますし、非常に面白おかしく、かつ感じさせてくれる部分も多々ありました。全体の分量600ページのうち、500ページまではそれこそ5つ星でもいいかな?と思わせるほどに。

ただラスト100ページの中で起こる、あるいは起こすいくつかの出来事は少々やりすぎたかな?という印象です。多分あることの大切さを伝えるためにそういった演出を試みたのだろうと思いますが、その大切さはそれまで描いてきた自然なエピソードで十分に描ききれていたと思います。まあ、何にせよお勧め作品に違いはありません。これまで荻原さんの作品は2つ書評しましたが、いずれにも書いてきた出ティールの人で全体のテーマがぼんやりしている、という弱点も本作に関しては見受けられませんしね。