すべてがFになる―THE PERFECT INSIDER (講談社文庫)/森 博嗣

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☆☆☆
いつもの書評は3年~1ヶ月ほど前に読んだものの記憶を読み起こしながら書いているのですが、今回のは2日前に読み終わったばかりの作品です。
一説にはメフィスト賞創設のきっかけになったと噂されるデビュー作です。実際にはデビュー作、メフィスト賞創設のきっかけには諸説、裏話あるようなのでその辺りのことが気になる方はwikipediaでも読んでみてください。

さて、本作は密室殺人事件です。それも窓1つない全てがコンピュータ制御の、普通には出ることも入ることも出来ない研究所の中にある、その中でも特別厳重な正に入ることも出ることも許されない場所で起きた殺人事件です。もっと言えばその研究所がある島は孤島ときたもんだから、どれだけ慎重なんだ!!ってなもんです。

さて本作は既に完結している「S&Mシリーズ」の第1作に当たるわけです。主役であり探偵役に当たる犀川創平と西之園萌絵も今作で初登場します。美男美女、おまけに西之園萌絵は今時やらないだろってなくらいの大富豪のご令嬢だったりします。まあ設定自体はそれで何の問題もないのですが、いくらなんでも超然としすぎていると言うか、現実感がなさすぎる2人でもあるわけです。
実はこれ主役の2人だけでなく、この作品の登場人物全てに言えるわけでもあります。まあ孤島の超エリート研究所で働く方々が登場人物のほとんどなので、どうにか理解できないこともないこともないのですが、それにしたってって感じです。

例を挙げれば
・まだ殺人鬼がいるであろう館内を平気で単独行動する。
・遺族に向けて洒落にもならないジョークを言う。
・腐敗臭漂い手足もない死体を平気で確認させたり移動させたり。
・警察到着後、捜査が始まっているにも係わらず酒盛りが始まる。
・探偵役2人のうちの女性を犯人かもしれない人のところに平気で1人で向かわせる。ちなみにもう1人の探偵役はその女性の教員であり保護者のような彼氏のような立場。
・既に2人も死んでいると言うのに誰1人として自分に危害が加わる可能性を恐れていない。
・殺害現場に好き勝手に触るキャラたち。それを止めない人たち。

さすがに…どうなんでしょう。猟奇的な殺され方をした死体が猟奇的な登場の仕方で現れ、読み手はドキドキしているのに登場人物が白けさせてしまうってのは。理系ミステリーと言われるだけあって、あまりそういう不気味な雰囲気漂う作風にしたくなかったのかもしれませんが、それにしたってというのが本音ですね。

全体としては、トリックの秀逸さやキャラの立ち方など続編を読んでみたい気にさせるには充分な作品と言えるでしょう。とは言え京極夏彦や綾辻行人程の中毒性は感じられませんでした。この2人の作品はいずれも次を読みたくて読みたくてすぐ書店に走りましたからね。