流星の絆/東野 圭吾

¥1,785
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☆☆☆☆
ネタばれありの書評は予告した上で後半にスペースを空けた後に記載しますので、安心してお読みください。

ストーリーに関しては大ヒットした作品の上、ドラマ化までされているので今更お話する必要もないかもですが、簡単にだけ。
幼い頃、両親を殺された3兄妹。彼らはこの歪んだ世界を生き抜くため詐欺で生計を立てていた。そんな中あるきっかけから犯人と思しき人物を人物を発見した時、彼らは復讐を誓った。しかし妹がターゲットへと恋心を抱くことは計算外だった。

詐欺を始めるきっかけが起きたときに彼らが交わした会話が、

「この世は騙すか騙されるかだ。<中略>要するに上手くやった奴の勝ちなんだ。俺たちに騙された奴は、もし自分が損をしたくないと思うのなら、別の誰かを騙せばいい」
「ババ抜きみたいなもんか」

です。この辺りの雰囲気は、「白夜行」に通じるところがあるかもしれません。ただし兄弟同士の関係は読者が共感できる、もっと一般的な関係性であって、白夜行のような超越的な人物は登場しません。

全体を通しては非常によくできたストーリーだと思いますが、ミステリーとしての完成度はいまいちかな。その点では「容疑者Xの献身」に大きく譲りますね。

以下、「真犯人」、「トリック」に言及したネタばれありの書評です。次回ドラマが最終回だと思いますのでドラマフォロワーは読まないほうが良いかも?








全編通して追いかけてきた「アリアケ」のレシピを盗んだと思われる男、戸神政行が犯人でなかったことは多くの読者にとって意外ではなかったのでは?と思います。そこまで単純なストーリーだと思って読んでいた人は少ないでしょう。

ただし「柏原が真犯人だ」と功一が気づく流れは秀逸でした。傘の柄についた傷、に気づいた瞬間、私自身も冒頭で柏原が素振りをしていたシーンを思い出しまし、ゾワっとなりました。
しかしどんでん返しそのものは見事ですが、逆にここまで読んできて、それ以前に柏原を犯人だと思えるだけのきっかけはあったでしょうか?傘についての捜査を止めようとしたことくらいですよね?
このブログで何回か書いてきましたが、良作ミステリーの条件は読者にも推理できるだけの材料が与えられていることだと思っています。今回は正直少し苦しかったですね。推理できるだけの材料を与えてきて、しかしそれでも裏をかかれるだけの材料があれば、なお良かったと思います。
例えば傘の柄については途中から明らかになっており、柏原が犯人かも?と思わせておいたら犯人は別人だった、という程度の工夫はほしかったかな。

どんでん返しが待っていることは皆了解済みで読んでいるわけですから、それを当然のようにされても意外性にはかけます。加えて本作では登場人物が少ないので根拠はなくとも真犯人の予測も何人かに限定されてきます。柏原以外では荻村か行成、ほぼ登場しないので考えにくいですが静奈の父親、というくらいしか候補がいません。あとはかなり苦しいですが泰輔ですかね?
この中では現実的には柏原くらいしか考えにくいんですよね。
しかも動機が子どもの医療費を払うために、夫妻を殺してお金を盗んだって…。
物語として評価するにはあまりにステレオタイプな動機過ぎますよね。

どうもネタばれありの書評は文句が多くなりますが、それでもグングンのめりこんで数時間で読まされてしまったんですからそこは作者の腕ですね。無駄なくテンポ良く進みますし、矛盾や変な引っかかりもないです。登場人物の心境にもちゃんと共感できますしね。
ラストシーンで行成がイミテーションの指輪を買ったのはなかなか良かったですね。たかだか50万で購入したレシピであんなに会社が大きくなったわけですから謝罪も含めて改めて、レシピノートの原本を買い上げたのかと思いました。でも指輪の方が素敵です。東野さん見事です。