どこから行っても遠い町/川上 弘美

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☆☆☆☆
捨てたものではなかったです、あたしの人生――。男二人が奇妙な仲のよさで同居する魚屋の話、真夜中に差し向かいで紅茶をのむ「平凡」な主婦とその姑、両親の不仲をじっとみつめる小学生、裸足で男のもとへ駆けていった魚屋の死んだ女房……東京の小さな町の商店街と、そこをゆきかう人びとの、その平穏な日々にあるあやうさと幸福。川上文学の真髄を示す待望の連作短篇小説集。(amazonより)

川上弘美さんデビューしてみました。以前こちらのブログでご紹介したモンキービジネスで小川洋子さんと対談されていてかなり気になっていたんですが、ようやく読んでみました。

さて、本作は連作短編と称していますが、実際には同じ町で暮らす人々、ということ以外作品関リンクはほとんどありません。(ある短編に出ていたキャラクターがチョイ役で別の短編という程度はありますが)伊坂幸太郎を読まれている方であれば「終末のフール」のような感覚だと思っていただければいいと思います。

内容はある街に住む1人の人を描いた作品群です。彼らは学生だったり魚屋だったり、予備校講師だったりとごく普通の人々で、しかも小説的な出来事もほとんど起きません。彼らはみな口が重たく、自分が考えていることや何となく感じていること、人生観などを因果を含め明確に語ることも出来なければ、村上春樹、伊坂幸太郎のように気の利いたセリフを吐くこともできません。そもそも文体自体もスパッスパッとは進んでいかず、どうもはっきりしないまま続いていきます。この辺が馴染まない人には馴染まないかもしれません。でもそもそも人生なんてモノ自体が亡羊としたものだし、そんな中に束の間起こる、ちょっしたことで明確に言葉にはできない何かを感じたり掴んだりするものなんじゃないでしょうか?この作品ではそうそう大したことは起こりません。しかしその体験の中で彼らは過去を含めた自分を分かっていきます。それは人生の心理というにはあまり矮小なことだったりもしますが、彼らに共感できる人生観をお持ちの人ならこの本に出会えてよかったと思えるはずの(言葉というほど簡潔にはまとまらない) 文章です。

個人的にはこの作家に出会えて良かったと久々に思えた感じです。まあまだ1冊何でこの先どうだかわかりませんが。

村上春樹のロングインタビュー70P、小川洋子×川上弘美70Pが入った素晴らしい雑誌です。是非!
モンキービジネス 2009 Spring vol.5 対話号/柴田 元幸

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