迷宮百年の睡魔 (新潮文庫)/森 博嗣

¥780
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☆☆☆☆
周囲の森が一夜にして海と化したという伝説を持つ島イル・サン・ジャック。22世紀の旅人ミチルとロイディがこの島で出会った「女王」は、かつて別の地に君臨した美しき人に生き写しだった―。王宮モン・ロゼで発見された首のない僧侶の死体、犯人と疑われたミチル、再び消えた海と出現した砂漠。謎に満ちた島を舞台に、宿命の絆で結ばれた「女王」とミチルの物語の第2章がはじまる。(amazonより)

ミチルとロイディが活躍する百年シリーズの第2弾です。
前作「女王の百年密室」に4つ星をつけましたが今作も素晴らしい出来ですね。

百年後の未来を舞台にしたミステリーと言うことなんでしょうが、何て言うかその辺超越しちゃってる作品ですね。科学技術が発展した未来において、クローンやロボットという象徴的なツールを使いながら生命倫理や人間の尊厳を問うこと自体はありがちなのですが、未来の科学を描きながら現在では実現出来ない科学技術を用いて形而上的な宗教的、哲学的テーマにまで発展させている手法は実に見事です。(詳細を書きたいのですが本作はSF兼ミステリーなのでネタバレは避けたいと思います)
特にクライマックスの、ある人物の語りなど禅宗の思想や、デカルトのデーモン仮説を彷彿とさせる論理展開がされており、この舞台装置を使ってこんなところに話を持っていくか、と感心させられました。

勿論本作は娯楽小説でありSFとしても素晴らしい出来です。キャラ設定や独特な世界観を作るのが得意な森博嗣の作品ですから堅苦しくて読めないなんていう感じではないのでご安心を。但し純粋なミステリーを求める方には合わないかもしれません。本作はミステリーよりはSFに近い作品なので、トリックは推理小説という範疇で考えれば完全に反則モノです。

ちなみに本作はシリーズ第2弾ですが、1作目は必ずしも読んでいなくても楽しめます。こちらを読んでみて興味が湧いたら前作に戻ってみるのも手でしょう。とは言え順番に読んだ方が読みやすいのは間違いないですから出来れば1作目の「女王の百年密室」からお読みいただいたほうが良いと思います。

ちなみにS&MシリーズやVシリーズをお読みの方、百年後の未来を描いた作品である本作は同一世界上の作品です。四季シリーズを読めば繋がっていることが確認できますのでその辺をお読みの方も読んでみると違った楽しみ方が出来るかもしれません。ちなみに百年後の世界ですので「四季 冬」をお読みいただかないとどんなつながりかは見えてこないかと思います。

女王の百年密室―GOD SAVE THE QUEEN (新潮文庫)/森 博嗣

¥820
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