四季 春 (講談社文庫)/森 博嗣

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☆☆☆☆
『S&Mシリーズ』と『Vシリーズ』に登場し森博嗣ワールドにおける最高の頭脳の持ち主真賀田四季にスポットライトを当てた作品です。
当然両シリーズとの絡みがあります。

四季シリーズ第1弾に当たる本作は5歳~8歳までの真賀田四季が描かれた作品です。
さて、本作のあらすじなのですが、正直言って書けません。明確な筋と言うものは存在しませんし、下手に触れればネタバレになってしまうかもしれませんし。
ただ1つだけ確実にいえることは、これ以前の(恐らく以降も)森博嗣作品とは明確に毛色が違う作品です。
ミステリー的な要素もないわけではないのですが、純粋なミステリーとして読むとかなり拍子抜けさせられることでしょう。本作におけるミステリーは2つです。
1つ目はストーリー前半部で起きる殺人事件。しかしこの事件については折について多少触れられるだけで、一切謎解きのようなものは行われません。またトリック自体も反側と言うか拍子抜けするようなものです。
2つ目は本作全体で仕組まれたある叙述トリックです。これはミステリーを読みなれた方ならある程度想像がつくはずですが、そこに一工夫がされていることで中々正解にはたどり着けないだろうと思います。
さて以上2つの要素が存在することで本作はギリギリミステリーと呼べる範疇にはいますが、どちらの論理構成も森博嗣というよりは京極夏彦のそれに近いです。特に殺人事件のトリックはもう少し工夫した形で京極夏彦が使っても何ら不思議ではない感じです。京極夏彦をお読みなった方ならお分かりでしょうが、つまりそういう雰囲気の小説と言うことです。京極堂のきめ台詞「不思議なことなどないのだよ」が象徴するように、ロジック自体は非常に論理的な京極夏彦作品ですが、そのトーンは理系ミステリとは雰囲気がまるで異なる作品です。
またそういった象徴的な箇所以外も本作はまるで幻想的な文学小説を読んでいるかのような気になるトーンで終始しており、個人的には文学作品としても解釈が出来るものであると思っています。そして文学小説(勿論純粋な意味での文学とは言いがたいですが)としてもかなりの高得点が当てられる出来栄えです。個人的にはこれまで読んだ森博嗣作品の中では最も気に入った作品でもあります。

さてさてファンサイトなどによれば本作は『S&Mシリーズ』→『Vシリーズ』と読了した後に読むと一番効果的らしいです。なせならこの両シリーズがどのような形で繋がっていたのかのネタバレがあるからです。しかし私は『S&Mシリーズ』しか読んでいません。しかもこのブログを読んでくださっている気の長い方ならご存知かもしれませんが『S&Mシリーズ』すら飛ばし読みしました。半分の5冊しか読んでいません。(ちなみに『S&Mシリーズ』で真賀田四季が登場するシリーズ第1弾「すべてがFになる」とシリーズ最終作「有限と微小のパン」は読んでいます。」)

そんな私の意見です。「いきなり読んでも大丈夫!!!」問題なしです。ただ、真賀田四季が強烈な存在感を持って登場する「すべてがFになる」くらいは読んでおいたほうが良いかもしれませんね。なんだかんだ森博嗣さんの代表作ですし。

ちなみに『S&Mシリーズ』→『Vシリーズ』とちゃんとした順番で読んでいく気があるのなら、それが1番いい読み方なんだろうとは思います。それぞれに出てきたキャラクターが登場すれしたりすれば ニタニタできますしね。

四季シリーズをまとめた「四季シリーズまとめ」はこちら

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