ブラック・トライアングル―温存された大手損保、闇の構造/谷 清司

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タイトルのブラック・トライアングルの意味するものは「保険会社」「国」「裁判所」です。このトライアングルが巧妙に交通事故の保険金を「値切っている」というのは本書の趣旨です。
のっけからで申し訳ありませんが、すばらしい内容と裏腹にこのタイトルは失敗だったんじゃないかと思います。(いくらなんでもわかりにくすぎる…)

さて、皆さんは交通事故被害にあった場合どのような基準で、どんな段取りで保険金が決定されるか知っていますか?正確なところは知らなくとも大体こんな感じだろう?ということは想像がつくだろうと思われます。そしてそれは概ね正しいです。
しかし一見すると至極真っ当な流れの中で、「保険」という専門領域であるがために素人には理解できない手法で味方であるかのように振舞っている「保険会社」「国」「裁判所」が保険金を値切っていたのです。
本書はその実態と手法、保険の構造を解きあかした1冊です。

本書では細かなシステムも含め実際の事例なども取り上げながら、制度上の様々な不備や悪質な保険金値切りの手法などを紹介していますが、ここでは最も基本的かつ致命的なところだけを紹介します。
実はこの問題は交通事故保障を考えるにあたってよくよく考えてみれば、誰もがたどり着けるごくごく基本的な矛盾なのです。

我々が被害者の立場で交通事故に遭遇した場合、同事故の加害者に責任を求めるわけですが、現実には加害者が自分の財布から弁済するわけではなく、加害者が加入している保険会社が支払うわけです。同様に交渉自体も被害者と保険会社が行うわけです。
問題はここにあります。

つまり金銭を支払う側が支払う金額を査定できるわけです。当然支払う側は金額を抑えれば抑えるほど利益が上がるわけです。加えて保険会社は法律知識とノウハウ、人員、時間的余裕(それが仕事ですから)を持っていますから、知識もない素人で、病院にいかなくてはならない、仕事をしなくてはならないといった状況にある素人がこれに太刀打ちできないわけです。
では保険会社が決めたい放題なのか?というとそんなことはなく不満があれば「損害保険料算出機構」という団体が、新たに金額を算出してくれるわけです。しかしこれが何より大きな落とし穴で同機構は純粋な第三者機関ではなく、大手損保会社の社長役員クラスがトップに名を連ねる団体なのです。つまり結果的には、保険会社への不満を保険会社へ訴えているのと変わらずさしたる効果は期待できないわけです。

そこで最後の手段、裁判所が登場するわけですが、ここから先は本書でご確認ください。

本書はこういった大枠のシステム以外についても細かな矛盾点なども数多く指摘しています。例えば臭覚や歯を失った場合、仕事へは影響を及ぼしにくいためまともに補償がされないとった点です。
率直に言って粗がまったくない本ではありません。いちいち例を挙げて書き出しはしませんが、相手側の矛盾などを指摘するためのデータは豊富な割りに自身の論を保証してくれるデータは少なめであったりと一部説得力に書けるパートもあります。
ただそういったマイナスを差っ引いても、圧倒的な矛盾があることははっきりと理解できるテーマです。
データなども入ってはきますが、決して学者の書いた論文チックなものではなく、文春や新潮のルポなどを読まれている方であれば大きくレベルは違いません。身近な問題でもっと知られてもよいのに、意外と気づいていない矛盾を教えてくれる1冊です。

自動車保険金は出ないのがフツー (幻冬舎新書)/加茂 隆康

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