邪魔〈上〉 (講談社文庫)/奥田 英朗

¥660
Amazon.co.jp

☆☆☆☆
及川恭子、34歳。サラリーマンの夫、子供二人と東京郊外の建売り住宅に住む。スーパーのパート歴一年。平凡だが幸福な生活が、夫の勤務先の放火事件を機に足元から揺らぎ始める。恭子の心に夫への疑惑が兆し、不信は波紋のように広がる。日常に潜む悪夢、やりきれない思いを疾走するドラマに織りこんだ傑作。(amazonより)

伊良部シリーズ以来の、そして初奥田英朗長編です。
主役はあらすじで書いた主婦と放火事件を担当した刑事です。この2人の話が交互に展開されています。この2人以外にも、ある不良少年にスポットライトが当てられており、彼の視点も時折挿入されます。主役2,5人の物語といった感じですかね。
ストーリー的にはそれぞれが別の理由で、社会的に追い込まれていくことによって、精神も追い詰められていく様を上限巻合わせて700ページ強かけて丹念に描いた物語です。犯人のどんでん返しがあるわけではなく、何かしらの解決があるわけでもない、どんどん不幸になっていく人たちの物語ですから、購入を考えている方はその点、ご注意ください。

さて本書の評価ですが、これは下巻最後に書かれている解説がかなり的を得ていると感じました。解説によれば、奥田英朗は長編を書く際にプロットは書かずに流れに任せて書きすすめていくタイプであり、リアリティーには物凄くこだわる方なんだそうです。
本書を読了後にこの解説を読むと、ああなるほど、とうなずけます。

物語が進むに従って、暴走としか思えない行為を行う主人公たち、でもそれまでのストーリを追っていれば、彼女たちが如何にして追い詰められ何故にそんな行動をとっているのかが合理でなく皮膚感覚で理解できるのです。なぜなら警察機構などの書き込みなど社会的な部分から、人間の心情まで、徹底的にリアリティーにこだわっているからです。その辺の作り込みによって長編であるにも関わらずどんどん読み進められる魅力的な作品になっているのですが、一方で作品を読み終わった後に何が残るのか、と問われればこの作者が何を描きたかったのかはいまいち見えてきません。それは恐らくプロットを作り込んでいないために、作品のテーマ性や哲学が作者自身にも明確になっていないのでしょう。

こういった理由から、全編通してとにかく引き込まれる作品ですが、良い作品を読んだという読後感は残してくれない作品です。ある種力技な作品ではありますが、それでもやはり名作ではあると思うので、興味を惹かれた方にはお勧めしたい作品ですね。

邪魔〈下〉 (講談社文庫)/奥田 英朗

¥660
Amazon.co.jp

こっちは更に鬱な感じの本みたいですが、評判がすこぶる良いので読んでみようと思っています。
最悪 (講談社文庫)/奥田 英朗

¥920
Amazon.co.jp