地球儀のスライス (講談社文庫)/森 博嗣

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☆☆
本作はVシリーズ第9弾の「朽ちる散る落ちる」の落ちの部分の伏線になっているという事前情報を手に入れたので読んでみました。
しかし森博嗣の書評ではしつこいくらいに書いているが、ある作品を読まないと別の作品の落ちを理解できないというパターンは本当にやめてもらいたい。それが同シリーズの前の作品とかであるのならまだ理解も出来るが、短編集の中の1作が長編の伏線になっているなんて熱心な読者か、ネットで事前情報を調べようとする消費者(その行為自体が熱心な読者とも言えるが)以外はその長編自体も楽しめないという自体を引き起こすことになる。いくらなんでもやり方が商業的過ぎると感じます。

さて本作は短編集なわけですが、全編通してあまり質の高い作品は見当たりませんでした。S&Mシリーズの延長線上にあり萌絵や犀川も登場する「石塔の屋根飾り」は単なるミステリーではなく、ある遺跡で発見された不可解な状況の理由をクイズ形式で犀川が出題する、まるで世界不思議発見のようなテイストで構成もネタ自体も楽しめました。(しかしあのネタは全くのオリジナルなのか、それとも元ネタがあるのか?)しかしそれ以外の作品については取り立てて評価するほどの作品は見当たりませんでしたね。
例えば「僕に似た人」は作品を子ども独自の視点から描くことによりある叙述トリックが隠されているのですが、これも他作品との絡みがあるから楽しめるだけで作品自体は凡庸もいいところです。
「朽ちる散る落ちる」の伏線になっている「気さくなお人形、19歳」は感動ものですが、これもドラマとしてはありがちで強い印象は残りません。

この作者は短編集でこそ作者の力が出るという類のことを仰っていましたが、だとしたら自分で自分の首を絞める言葉ですね。基本的に他シリーズとの絡みで楽しめる作品が多すぎるので、あくまで森博嗣ファンが喜ぶだけの作品といった印象です。

朽ちる散る落ちる―Rot off and Drop away (講談社文庫)/森 博嗣

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