新潮文庫「白い巨塔 全5巻セット」 (新潮文庫)/山崎 豊子

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☆☆☆☆☆
今回はあらすじはなしです。というのもこの作品2500ページ弱ある超大作で作中にはいくつかの事件が展開していくため、あらすじまとめてしまうとネタバレを含んでしまうからです。本作は財前五郎という突出した外科医の才能と、政治的な野心を持った男の人生を描いた作品です。

本作は日本を代表する社会派作家である山崎豊子の代表作の1つですが、私はこの作品で山崎豊子デビューしました。
読みだす前段階としては古い本な上に社会派ですから、かなり読みにくいことを懸念していたのですが、実際には金の単位が違うくらいで文体の古めかしさも内容的なハードルの高さもほぼ感じることがありませんでした。
本作を読んで何より感心させられるのは、医局制度、先端の医療事情(当時)、医療訴訟といった複数の専門知識を要する事柄を書いているにもかかわらず全く難解でないことです。裁判シーンなど通常の作家が書けば、目を留めてゆっくり読まねば理解できない様なパートもスラスラと読み進めることが出来ます。はっきり言って内容的にはかなりポップな『チームバチスタ』シリーズの方が余程理解しにくいくらいです。

物語自体は医局制度やなどを問題提起しながらも、実は多様な立場の人間に共感もできるし反感も持てるしといった構造になっています。一見すると当時の医療の問題点を象徴したかのような財前五郎を主役に据えることで彼が悪玉になりがちなのですが、政治的な手腕を第一とする者、社会的公正を志す者、私怨を晴らすために戦い続ける者など、患者医者や被害者ですら皆自分なりのエゴを持って他者に迷惑をかけながら生きているということが分かるつくりになっています。この辺も個人的には好感でしたね。

ちなみにですが本作は新潮社から出ている文庫版でいう3巻までで1度完結した作品ということです。4巻以降は続編『続・白い巨塔』として連載されていたものみたいです。現在は『白い巨塔』として刊行されているくらいなので内容的にも時系列的にも全く違和感なく進むのですが、確かに毛色が少し変わるんですよね。4巻以降大きな2つの結末にむかって話が進むのですが、どちらもヒューマニズムが出すぎていて違和感を感じます。個人的には3巻で終われば年間ベスト1位になったかもな~、と思わせるレベルの傑作でした。