最悪 (講談社文庫)/奥田 英朗

¥920
Amazon.co.jp

☆☆☆☆
不況にあえぐ鉄工所社長の川谷は、近隣との軋轢や、取引先の無理な頼みに頭を抱えていた。銀行員のみどりは、家庭の問題やセクハラに悩んでいた。和也は、トルエンを巡ってヤクザに弱みを握られた。無縁だった三人の人生が交差した時、運命は加速度をつけて転がり始める。比類なき犯罪小説、待望の文庫化。(amazonより)

先日発売された奥田英朗最新作「無理」の帯には「最悪、邪魔に続く…」という文言があったのでどうやら1連のシリーズみたいですね。確かに構造から美点、欠点に至るまで以前紹介した「邪魔」にそっくりです。正直「邪魔」の書評を読んでいただければそれで充分なのですが、一応簡単にまとめておきます。

この作品に登場する3人の主役たちはいずれも些細なきっかけや悪意からどんどんのっぴきならない状況に落とし込まれていきます。恐らく綺麗に要約した文章でも読めば、「こんな状況になる前にもっとまともな選択肢があったはずだ。荒唐無稽過ぎてとても読む気になれない。」なんて感想をお持ちになる方が多いかと思います。ところが実際にこの本を手にして読んでいくと彼らがほとんど自ら深みにはまり込んでいく心理状況に強く共感できます。その理由は作者が徹底的にディティールへ拘り書き込んでいるからです。要は話の飛躍がないためにその都度共感や同情を覚えながら話が進んでいきます。彼らにあまりに入り込んでいしまうためドンドン不幸になるだけの長編なのにページをめくる手が止められなくなります。それでもエンディングにはある種の救い(むしろ不幸の極みかもしれませんが)が待っているのでご安心を。

ちなみに冒頭に書いたように欠点も「邪魔」同様で、ディティールにこだわった割に全体としては何がしたかったのかがはっきりしない作品で、読んでいる間の熱中度と比べると読後は強い印象や感慨を残してくれない作品でもあります。

個人的には様々なドラマがある「邪魔」の方がよりのめり込めた作品ですが、あちらはさらに長いのでためしに「最悪」から読んでみるのも良いかと思われます。

無理/奥田 英朗

¥1,995
Amazon.co.jp

邪魔〈上〉 (講談社文庫)/奥田 英朗

¥660
Amazon.co.jp

邪魔〈下〉 (講談社文庫)/奥田 英朗

¥660
Amazon.co.jp