赤緑黒白―Red Green Black and White (講談社文庫)/森 博嗣

¥770
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☆☆☆
鮮やかな赤に塗装された死体が、深夜マンションの駐車場で発見された。死んでいた男は、赤井。彼の恋人だったという女性が「犯人が誰かは、わかっている。それを証明して欲しい」と保呂草に依頼する。そして発生した第二の事件では、死者は緑色に塗られていた。シリーズ完結編にして、新たなる始動を告げる傑作。

いよいよVシリーズ最終作です。個人的には森さんはこの作品で新しい地平に踏み出したな、という印象です。本作で使われているトリックはミステリー史に残るほどの駄作です。最もやっていはいけない部類の正に反則技ですね。これまでのVシリーズのいくつかの書評の中でも「テクニカル過ぎる」「推理不可能」といった評価を下して減点した作品がありましたが、それらの作品には少なくとも独創的な発想が見られました。それがこの作品で使われているトリックは誰もが真っ先に可能性から排除する、かつだれもが思いつく単純なものです。唯一評価できるのは一応そこに科学的な説明を付けていることだけですね。

ところが本作はこれだけ酷評したトリックの出来の悪さがあまり気にならない作品でもあります。なぜならこのトリックが登場するのは作品の終盤で、かつそのトリックは長い考察などを隔てることなくあっという間に瀬在丸紅子によって解明されるからです。つまり作者の殺人事件の謎を推理させる気がないという意図が伝わってくるわけです。序盤に出てくる謎も、ヒントもなく作中のキャラクターの調査によって解き明かされますし。まあS&Mシリーズの時点から殺人事件よりも大きな謎を造っておいて殺人事件の謎解きはおざなりというのはよくあったんですけどね。ちなみにこの作品に関しては大きな謎もあまりに安易だし、比較的早い段階で気付く方も多いと思います。つまりこの作品はミステリーではあっても推理小説ではないのです。これまでもそんな兆候はありましたがこの作品ではそれが如実に現れています。推理させるだけの材料が足りないのではなくて、はなから推理させる気がないのであればもはや、そういった1ジャンルの作品であると考えて評価するしかないでしょう。そして実際これ以降に発売された森博嗣の作品はその傾向がドンドン強くなっていきます。
そんなわけでいわゆる本格を求める方はこの作品はやめておいたほうが吉です。作者がはっきりとした意図を持って本格ではない新しいタイプのミステリーにチャレンジした作品ですから。
まあ本作に関して言えばVシリーズフィナーレということでシリーズ全体に仕掛けられた大きな謎が明らかにされるので、単にその辺は手抜きしているだけの可能性もありますが。

これまでにご紹介したVシリーズ
「黒猫の三角」☆☆☆☆
「人形式モナリザ」☆☆
「月は幽咽のデバイス」☆☆
「夢・出逢い・魔性」☆☆
「魔剣天翔」☆☆☆
「恋恋蓮歩の演習」☆☆☆
「六人の超音波学者」☆☆☆☆
「捩れ屋敷の利鈍」☆☆