月は幽咽のデバイス (講談社文庫)/森 博嗣

¥660
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☆☆
薔薇屋敷あるいは月夜邸と呼ばれるその屋敷には、オオカミ男が出るという奇妙な噂があった。瀬在丸紅子たちが出席したパーティの最中、衣服も引き裂かれた凄惨な死体が、オーディオ・ルームで発見された。現場は内側から施錠された密室で、床一面に血が飛散していた。紅子が看破した事件の意外な真相とは。 (amazonより)

Vシリーズを読む前にGシリーズを読んでしまったため知らないキャラクターや分からない複線が出てきたため、改めてVシリーズを読んでいます。でも3作読んでの感想はこのシリーズ、ダメですね。
今作に限定して言ってもトリックはテクニカルかつ突飛すぎて読者には推理不可能なものだし、事件が起きた背景についても全く触れられず。一体何を楽しめばよいんだか…。って感じです。こうなってくると、おなじみキャラクターの掛け合いを楽しむしかないんですが、事件現場である屋敷に遅れて現れ惨殺死体を見た直後に、屋敷の探検を始め、パーティーで残った食事と酒をかっくらう始末です。しかもこれが何の伏線にもなっていないから恐ろしい。
森さんは常々、死体を見たからといって悲鳴を上げたり正気を失うなんて不自然だと仰っています。でも惨殺死体を見た後にガツガツ食べるのは不自然じゃないのだろうか?人間なんてタンパクなものでショックなんて瞬間的なものだと思われているのかもしれませんし、実際のところそんなものかもしれません。だからと言って事件にショックを受けている人たちの前で「ご馳走も、お酒もパーか」と言ってみたり、殺人鬼がいるかもしれないかもれない屋敷を探検してみたり、この後警察から事情聴取を受けるかもしれないのに酒飲んで泥酔したりするのは常識もなければ論理的でもないし、現実感もまるでないと思うわけです。変なとこでリアリティーにこだわる割にはこの辺がまるで現実感がないんですよね。しかもそれが緊迫感を壊したり、作品の流れを止めてしまっているのでいまいち流れるように読めないんですよね。
まああんまり猟奇的な作品にしたくないのだとは思いますし、キャラクターモノ的な要素も強いので意図的にやっている部分も多分にあるのだとは思いますがいまいち乗り切れませんね。

世間的にもS&Mシリーズ以外は読む価値なしという意見を割りと耳にするのですが、どうもそんな気がしてきました。ここまできたら引けませんので全作読んでみる気ではいるんですがね。