ジョーカー・ゲーム/柳 広司

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☆☆☆
結城中佐の発案で陸軍内に設立されたスパイ養成学校“D機関”。「スパイとは“見えない存在”であること」「殺人及び自死は最悪の選択肢」。これが、結城が訓練生に叩き込んだ戒律だった。軍隊組織の信条を真っ向から否定する“D機関”の存在は、当然、猛反発を招いた。だが、頭脳明晰、実行力でも群を抜く「魔王」―結城中佐は、魔術師の如き手さばきで諜報戦の成果を挙げ、陸軍内の敵をも出し抜いてゆく。東京、横浜、上海、ロンドンで繰り広げられる最高にスタイリッシュなスパイ・ミステリー。 (amazonより)

今年度の本屋大賞3位の作品です。
時代設定はだいぶ違いますが、2位になった「のぼうの城」同様、一応時代ものと言える作品です。まあ同じく戦争中とは言え、向こうは戦国時代でこっちは第二次大戦ですが。ちなみに本作は陸軍中野学校関係のネタを膨らませて作ったスパイモノということですが、大半は創作なのでその辺の政治ネタなんかが嫌いな人も心配する必要はありません。小難しい話は全くありませんしね。

具体的な内容は「魔王」の異名をとる結城中佐が設立したスパイ養成学校“D機関”の在学生や卒業生が任務を遂行する様を描いた短編集です。文章力は高く、映像が頭に浮かびあがってきます。また短編としては物語もうまく描かれており、限られた枚数内で複線を持ってきたり、落ちを持ってきたりとプロットの作り方も悪くありません。ただし、スパイものとしてはどうしても期待してしまう、二転三転する展開や、アクションシーン、あるいは戦中のどろどろした生々しい駆け引きなどは全くと言っていいほどありません。人物描写も浅薄で人の心の機微を味わえるような作品でもありません。まあ本作に登場するスパイたちのキャラ設定がそういうものなのですがね。

楽しんでは読めましたし、非常によくできていることは間違いないので4つ星と迷ったのですが、そのあたりの減点で3つ星にしました。浅はかだけど良くできたキャラの立ち方や、単純だけどよく練られたプロットなどは映像化向きな作品ですね。2つか3つの短編をつなげて1つの作品として、キャラクターの設定を詰めれば良作エンタメになる予感です。

評価のポイント、減点内容ともに「のぼうの城」と近い感じになりましたね。評価はあちらの作品の方が高くつけましたし、お勧めしたいのはあちらの作品ですが、短編集ということで通勤時間なんかに読むにはこちらの方が良いかもしれませんね。

同じく陸軍中野学校を題材にしたということでこれも読んでみようかな?と思っています。
トーキョー・プリズン (角川文庫)/柳 広司

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のぼうの城/和田 竜

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