細木数子 魔女の履歴書 (講談社プラスアルファ文庫)/溝口 敦

¥780
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☆☆☆☆☆
週刊現代での連載企画を単行本化したものです。つまり細木が講談社を訴えることの元となった本です。

内容は彼女の人生を幼少期から追ったものです。ただし本書は一貫して細木を批判的な立場から論じているので、細木本人へのインタビューなどは記載されていません。本書は彼女を通してある種の日本の戦後までを描き出した良書であると思います。

テレビでの彼女の占いやアドバイスを聞いていれば、それが様々な宗教同士がぶつかり合うようなおかしな論旨になっている(もしかしたら私が勉強不足なだけでそのしょうな考え方をする宗派があるかもしれませんが、ちょっと考えがたいです)ことは一目瞭然だと思いますが、そんな彼女が現在の地位を如何にして手に入れたのか?本書を読めばその片鱗が見えるはずです。

私自身の感想としては、細木を批判的に描いた本書を読んで、細木の株が少々上がりました。彼女の占いがメチャクチャだと言うことは前述したとおり、既に分かっていたことですし、彼女の人生にまつわる黒いうわさも人生の大先輩の大物編集者の方からうかがって知っていました。勿論本書はその黒い背景を描き出していますので、それらを否定するものではありません。
ではなぜ株が上がったのかというと、彼女の壮絶にして、計算高い生き方は他人を大声で怒鳴りつけるだけの説得力にはなる、と感じたからです。勿論倫理的にも道徳的にも許されがたい人生を送ってきたことは確かですが、少なくと生っちょろい人生を歩んで適当なことを言っている3流詐欺師のような占い師とは違う含蓄があります。
一応、書いておきますが、私は彼女の人生を肯定するわけではありませんし、彼女の占いなんか過去においても未来においても一切信用することはありません。私が認めるのは善悪を超越した「人」としての力です。

蛇足ですが、これが週刊現代で連載されている頃、細木はライバル誌の週刊文春でインタビューに応じ現代の内容に合わせ自らの人生を語る連載企画を持っていました。もちろん、現代の内容を虚偽と見せるためです。かつて随分もめた文春編集部を使って論陣を張るとはしたたかにして見事としか言いようがないです。