心臓と左手 座間味くんの推理 (カッパ・ノベルス)/石持 浅海

¥880
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☆☆
以前、ご紹介した「月の扉」で、無理矢理探偵役を務められさせた座間味くんが復活です。(この辺のくだりは「月の扉」の書評をお読みください)
とは言え、続編というよりは、以前登場したキャラクターが別の作品で活躍するスピンオフに近いテイストなので前作を未読の方も充分楽しめる内容かと思います。

ストーリーは短編でいずれも安楽椅子探偵物(アームチェア・ディテクティブ)です。
「月の扉」でハイジャック事件の担当刑事だった大迫警視が現在進行形や過去に起きた事件の概要を話します。すると座間味くんが一見して完結したように見えた事件の矛盾点を見つけ、それまでとは違う見解を語ることで事件の真相が見える、本書に収録されている短編はいずれもこの体裁がとられています。議論によって真相を導き出す手法を得意とする石持浅海作品は、通常だとこの後更に数度の議論を重ね合わせることで真相までたどり着くわけですが、本書は短編で1作あたり40ページ程度のなので、そういった弁証法的なスタイルはとられていません。
石持浅海のあのテイストが好きな方には物足りないでしょうが、一方で一般的な探偵小説の形態になったため話はスラスラと進むので読んでいて心地よいです。

逆に気になったのは論理性ですね。そういった段階を踏まなかったためか論理の飛躍がちょっと凄すぎます。明らかに無理のある推理も目に付きました。あるいは本当に犯人がそんなこと考えて行動したとしたら、あまりに頭が悪すぎる、という印象で、どっちにとらえても若干苦しい感じです。

短編の推理物ですので本来、石持未読者にお奨めしたいのですが、いつもと違った論理展開がされている、という意味ではこの本を読んでも自分が石持に合うかどうかのリトマス試験紙にはなりえないと思います。まずは前作「月の扉」をどうぞ。あるいは石持を一躍メジャーにした「扉は閉ざされたまま」もよいかもしれません。

これまでにご紹介した石持浅海作品
「扉は閉ざされたまま」☆☆☆
「セリヌンティウスの舟」☆
「君の望む死に方」☆☆☆☆
「月の扉」☆☆☆