セリヌンティウスの舟 (光文社文庫 い 35-4)/石持浅海

¥520
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仲間を巻き添えにしかねない方法で自殺した1人の友人。彼らはある事故を契機に何よりも硬く強い絆で結ばれていたはずだったのに。
彼女の葬式後、彼らはいつもの場所に集まり話し合う。彼女の死の理由、そして彼女は本当に自分たちを巻き添えにしかねないような方法を選んで自殺したのだろうか?自分たちも、そして警察すらも気づいていない方法で彼女は私たちを護ってくれていたのではないだろうか?メロスを信じるセリヌンテイウスのように彼女を信じること、それだけを前提に彼らは語り合う。

といった感じのストーリーです。最後のくだりは私の記憶が曖昧で若干ニュアンス違っているかもしれませんが、概ねは間違っていないはずです。さて、どうでしょう?中々面白そうな話だな、と思われた方もいたんじゃないでしょうか?今作も「扉は閉ざされたまま」同様、数人がディスカッションを重ねることで事件を真相へと導いていく手法が使われています。その手法の面白さと新しさは「扉は閉ざされたまま」の項でも書いたように高い評価を与えられます。また「扉は閉ざされたまま」ではその手法の利点が多く見受けられる作品でした。
しかし今作は、悪い点ばかりが目立ちます。中の上程度に頭の切れる一般人が議論を重ね、堂々巡りでストーリーは進みます。実際の会議なんかで感じるダルさを本を読みながら感じさせられます。しかも最初に書いたように強い絆で結びついた仲間たちが語り合うわけですから、セリフがくさいことくさいこと。くさいくらいなら構いませんが、わざわざそんな状況下で「走れメロス」を引き合いに出して話し出すのはどうでしょう。嫌になるほど現実的なストーリーなのにまるでそこだけ古臭い芝居のようです。
正直全くお奨めできない作品です。私自身は石持作品を読み出して3つ目でこれに当たったのですがこれを契機にこの作者には手を出していません。ただしこの作品は「扉は閉ざされたまま」よりも前に書かれた初期作ですので、そういう意味ではまだ熟練していなくても仕方がないという部部もあります。(それにしてもとも思いますが)