空中ブランコ (文春文庫)/奥田 英朗

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☆☆☆
伊良部総合病院地下の神経科には、跳べなくなったサーカスの空中ブランコ乗り、尖端恐怖症のやくざなど、今日も悩める患者たちが訪れる。だが色白でデブの担当医・伊良部一郎には妙な性癖が…。この男、泣く子も黙るトンデモ精神科医か、はたまた病める者は癒やされる名医か!?直木賞受賞、絶好調の大人気シリーズ第2弾。(amazonより)

「イン・ザ・プール」の続編です。とは言ってもまた伊良部一郎が登場する短編集というだけで、前作を読んでいる必要は全くありませんが。
話の進め方や構造なんかは前作とまるっきり同じなので、その辺の解説や評価などについては「イン・ザ・プール」の書評をお読みください。ということで今回の書評は前作「イン・ザ・プール」からの僅かな変化、その中でも良くなった点、悪くなった点のみについてお話します。

まずは良くなったポイント。
1、タイトルにもなった本作の一発目短編「空中ブランコ」が顕著なのですが、作品に動きが増えましたね。空中ブランコでは伊良部があの巨体で空中ブランコに挑戦しますし、他の作品でも前作以上に伊良部がむちゃくちゃに動き回ります。
2、ギャクが増えましたね。前作を読まれている方に一番分かりやすい例を出せば、先端恐怖症の男が登場します。これだけでお分かりでしょう。まあこんな感じで笑えるシーンが増えています。

次に悪くなったポイント
1、前作の書評で書いた収束型のストーリーにますます拍車がかかりました。まあまとまりが良くなったと言えばそれはその通りなのですが、前作同様それほど深みのある話も落ちもないので、きれいに終わられるとちょっと物足りないですね。
2、ストーリーの落ちがステレオタイプの「良い話」になってしまっています。今作での落ち、というか教訓は「みんな苦しいけど頑張っているんだ」的な実に安っぽいものが多いんですね。しかもそれを文章化してキャラクターに喋らせちゃったりしてるのがなおのこといただけないんですね。エンディングだけ読めばまるで「道徳の教科書」のようです。

全体を通しては前作同様、非常に良くまとまった否定材料の少ない秀作なのですが、それだけに深みや面白みには欠ける作品かもしれません。とは言えちょっとした時間の合間に読むには実によく出来たお話なのでお勧めできる作品であることは間違いないです。でもまだ読んでいないなら「イン・ザ・プール」から読んでください。あっちのが良い本だと思います。

用もないのに/奥田 英朗

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最悪 (講談社文庫)/奥田 英朗

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