イン・ザ・プール (文春文庫)/奥田 英朗

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☆☆☆
「いらっしゃーい」。伊良部総合病院地下にある神経科を訪ねた患者たちは、甲高い声に迎えられる。色白で太ったその精神科医の名は伊良部一郎。そしてそこで待ち受ける前代未聞の体験。プール依存症、陰茎強直症、妄想癖…訪れる人々も変だが、治療する医者のほうがもっと変。こいつは利口か、馬鹿か?名医か、ヤブ医者か。 (amazonより)

初奥田英朗です。この本、前から気になっていてちょっと不気味な表紙とタイトル、そして精神科医が登場するということで、「世にも奇妙な物語」的な不気味な物語を想像していたんですが、実際は全然違いました。

さて書評です。本書はそれぞれに心の病を抱える人物たちが伊良部総合病院を訪れ、実に奇妙な医師である伊良部一郎と関わり合いながら自身を見つめなおしていくというような展開です。1つ1つの物語は良い意味で短編的で、実にコンパクトにしっかりとまとめられています。
また、彼らが抱える心の病は、携帯依存症だったり、家を出た後に煙草の消し忘れやガスの閉め忘れが気になって何度も家に戻ったりと、誰でもある程度が共感できるあるあるネタになっており、その辺りの工夫も買いですね。そして誰もが共感できる心理的な流れから、彼らがとんでもないことになっていく様子をわれわれが読んで笑うわけです。彼らの行動はそれこそ「世にも奇妙な…」くらい、ありえないところまでいってしまうんですが、きっかけとなる心理描写自体は非常によく分かるものなので、荒唐無稽なのに荒唐無稽に感じさせない、という手法が何より素晴らしいです。

ただしあえて言うのなら、落ちにいささかの不満が残りました。ネタ自体が精神に関わるものなので、ラストは「世にも奇妙な」や「笑うせぇるすまん」のように、「この先、この人どうなっちゃうんだろう?」と思わされる発散型を期待したのですが、本書のラストは概ねいい話に落ち着いてしまう収束型なんですね。先ほど書いたように、「ありえないんだけど、もしかしたらあるのかも?」と思わせるストーリー展開なだけに少々不気味ななラストや疑問符の残るラストで締めてもらえると、嫌な余韻が残る面白い小説になったと思うんですがね。きれいなラストはきれいなラストでいいんですが、これを教訓にしてどうのこうの、と思えるほどの教育的な効果が期待できない小説なので、最終的なイメージがぼんやりしていしまいました。

とは言え、なかなか面白い小説に出会えたので、同主人公同パターンで出ている残り2冊の短編集も読んでみたいと思います。

世にも奇妙な物語 SMAPの特別編

¥3,591


ものぐさ精神分析 (中公文庫)/岸田 秀

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統合失調症あるいは精神分裂病 精神病学の虚実 (講談社選書メチエ)/計見 一雄

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