ZEEBRA自伝 HIP HOP LOVE/ZEEBRA

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☆☆☆
10数年前まではヒップホップばかり聴いて暮らしていた。最近は日本語ラップはおろか向こうのモノも殆ど聴くことはなくなってしまったが、この本にはついつい惹かれてしまった。
日本語ラップの歴史を語るとき、最も重要な節目節目には常にこの人の名前があった。いとうせいこうや藤原ヒロシは日本にヒップホップを持ち込んだ人たちだ。それでも彼らの楽曲はヒップホップの歴史を作ったわけじゃない。日本語ラップを音楽の一ジャンルとして、そして商売として成り立つレベルにまで作り上げたのはマイクロフォンペイジャーとキングキドラ(ZEEBRAが在籍したグループ)だった。クラブでのライブ活動は平行して行いながらDragon Ashや安室奈美恵と競演することによってメジャーまで引き上げたのもZEEBRAだった。誤解を恐れずにいえば今日多くのラッパーが今ほど豊かな生活を送れるようになったのはZEEBRAの功績だろう。

私生活においてもドラマがある。乗っ取り屋と言われたホテルニュージャパンの社長でもあった横井英樹の孫であり、中学2年までは慶應に通うボンボンでもあった。そこからドロップアウトしいまやここまで這い上がった彼の人生には多くのドラマがある。

それを語ったのが本書である。

元々メディアへの露出機会も多く、インタビュー記事なども多いため当時多くの雑誌を読んでいた私にとってはそれほど新鮮な情報はなかった。とは言え、キングギドラ活動中止にいたる理由や1度は共演したDragon AshのKjこと降谷建志を強烈にディスった「公開処刑」の誕生に至る経緯、一時期さかんに批判されたDMXとの声の類似性へのコメントなどこれまでに本人口からはあまり語られなかった情報も含まれていたため面白く読めた。

とは言え難点も3つほど目に付いた。
1点目が固有名詞があまりに多く、当時リアルタイムにギドラやZEEBRAを聴いていた世代でないと分からないであろう人名や曲名、逸話が解説なしでかなりの頻度登場する。正直新しいファンはついてくるのが難しいのでは?と思う。 逆に最近は余り聴いていない、という世代は問題なく読めるだろう。私自身、全く問題なく読めた。

2点目が話がやたらと飛び回る点だ。基本的には時系列で進んでいるのにもかかわらず何かのエピソードの途中に急に数年前のエピソードが登場したりする。しかもそれが進行中のエピソードと深く関るようなこともないので意図が良く見えない。また、回想に入る場合もその予告はなく曲名やイベント名から時期が推測できるのみなので、それこそ当時のファンでないとその曲やイベントがかなり昔のものであるということにすら気づけない可能性が高い。

3点目に、全編通して話し口調で進んでいくことだ。ZEEBRA自身はロックスターのような振る舞いが極めてよく似合う人物でありカリスマ性を備えた数少ないラッパーであると思う。そのため普段のラッパー喋りは鼻につくようなものではないが、本で読むには結構違和感がある。
それでも読み進めるうちに慣れてはくるが「祖父、横井英樹への想い」と題された4章の冒頭の文章が「俺の足の親指くそデカイんだよね」で始まったときにはどうしていいのか分からなくなった。そのまま数行読むと、やたらと大きい足の親指を小さい頃から不満に思っていたが段々とその存在を偉大な祖父横井英樹に重ね合わせてしまうんだな、ということがわかるわけだが、それにしたってどうしたものだろう。

以上のような欠点はあるもののそれも含めて楽しんで読める本ではある。
ただし、90年代にある程度熱心に日本語ラップを聴いていたそうに限定されるであろうことは間違いない。人を限定した場合には中々お奨めの一冊です。

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