クリムゾンの迷宮 (角川ホラー文庫)/貴志 祐介

¥700
Amazon.co.jp

☆☆☆☆☆
目を覚ますと、そこは岩と砂ばかりの場所だった。彼の横には一台のゲーム機が置かれており、そこに表示されたメッセージは「火星の迷宮ようこそ」。

貴志祐介の傑作クリムゾンの迷宮です。
冒頭からしていきなり荒唐無稽な始まり方をするわけですが、話が進むにつれある程度疑問が解消され、はまり込んでいけます。まず冒頭で1人の女性と出会い、この女性と行動を共にすることになります。次に、全く同じ状況におかれた複数のメンバーに遭遇することになります。皆一様にどうやってここに来たのか?目的は何なのか?といった記憶は定かではないものの、恐らく自分の意思でここへ来たこと、優勝者には大金が与えられること、といった情報が集まり、このゲームがゼロサムゲームであることを悟ります。

物語はここからスタートを切り出します。ゲームに優勝するという目的が、まるで砂漠のようなこの環境下では=サバイバルゲームへと変貌していき、ついに凶行に及ぶ者も。しかしそれがそもそもこのゲームが意図していたことであることを知ってしまうと…。

内容としては「バトルロワイアル」やスティーブン・キングの「死のロングウォーク」あるいは映画「SAW」、に近いテイストです。これらとの違いは「バトルロワイヤル」ほど人間ドラマはないが、物語の完成度は高く「死のロングウォーク」ほど哲学的なテーマはないが、かわりに退屈でもない、といった感じです。

抜群のエンタテインメント作品ですが、これも貴志さんの作品ですのでホラー的要素(お化けが出てくるわけじゃありません)は盛り込まれています。特にクライマックスの逃亡シーン(何からとは書きません)は正に自分が主人公に成り代わったような感覚になって読める、素晴らしい完成度です。だからこそ本当に恐いので、その辺のテイストが苦手な方は避けたほうが無難かもしれません。