果断―隠蔽捜査〈2〉/今野 敏

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☆☆☆☆
以前ご紹介した隠蔽捜査の第2弾です。
個人的には、今野さんの作品の中でもこのシリーズは1番だと思います。

前作のラストで所轄署に左遷された竜崎伸也。今作では大森署署長としての登場ですが、相変わらずのキャラクターです。原理原則に忠実で合理的、国のために身を粉にして働く彼の仕事ぶりにまたも軋轢を生みます。

彼のキャラクターなどについては前作の書評をお読みいただくとして、本作の内容について端的に触れさせていただきます。基本的には全体のテイストなども前作と似通ったところがあるのですが、前作では調整役のようなポジションにいた竜崎が今作では署長になることでより現場に近いところで動くことになるわけです。そのため前作のような官僚機構内での入り組んだネゴシエートはなくなってしまいしたが、代わりに動きが生まれ読みやすくはなっているかもしれません。個人的には前作の方が特徴的で今作は少々ありがちな感じになってしまった感じはあるので前作の方が好みです。
とは言え如何にも現実の警察組織ではありそうなやりとりなどは相変わらずのリアリティーです。

事件の真相にはどんでん返しがあり、本部からは圧力が様々な形で圧力がかかります。この辺りのプロットは「踊る大捜査線」を初めとする刑事ドラマのようですが、やはり一番の違いはリアリティーです。圧力や駆け引きも分かりやすい形での恫喝などはなく、最終的に自分ではない誰かに責任が回ってくるような独特の言い回しを使ったり、上部組織への報告と言う名を借りた嫌がらせをしたりと如何にもありそうな、そしてだからこそ読んでいて現実の厳しさや苛立ちを感じ、かつ主人公に共感することが出来る現実感を持っているのです。

さて、本作は警察小説という便宜上、ミステリーのカテゴリーに入れましたが、本来的な意味でのミステリーとは言いがたいです。人が死んだり、事件にどんでん返しが合ったりとミステリーの要素は含まれていますが、あくまで主眼がそこには無いことはお読みいただけれが分かるでしょう。何にしてもこのシリーズは本当に傑作なのでお時間がありましたら是非読んでみてください。

ちなみに第3弾もどこかで連載されていたのか既に書きあがっているようです。これは発売されたら必ず読みます。

これまでにご紹介した今野敏作品
「蓬莱」☆☆☆☆
「イコン」☆☆☆
「神々の遺品」☆☆☆
「隠蔽捜査」☆☆☆☆
「リオ」☆☆☆