華麗なる一族〈上〉 (新潮文庫)/山崎 豊子

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☆☆☆☆☆
業界ランク第10位の阪神銀行頭取、万俵大介は、都市銀行再編の動きを前にして、上位銀行への吸収合併を阻止するため必死である。長女一子の夫である大蔵省主計局次長を通じ、上位銀行の経営内容を極秘裏に入手、小が大を喰う企みを画策するが、その裏で、阪神特殊鋼の専務である長男鉄平からの融資依頼をなぜか冷たく拒否する。不気味で巨大な権力機構「銀行」を徹底的に取材した力作。(amazonより)

『白い巨塔』があまりに素晴らしかったので、こちらにも手を出してみました。
いや~、圧巻ですね。
基本的な構造は『白い巨塔』に近いのであちらの書評を読んで頂きたいのですが、今作は金融再編、中でも神戸銀行の岡崎財閥をモチーフとした作品です。

描かれる主要テーマは2つ。1つが金融再編の機運が高まる中、上位行を喰わんとする万俵頭取を筆頭とした阪神銀行の物語。もう1つが政略結婚を繰り返し財閥の地位と力を高めんとする万俵大介を筆頭とした万俵家の物語。勿論阪神銀行は万俵財閥の基盤となる企業であるし、政略結婚などで家の力を高めることはイコール企業の力を高めることにもつながるので両者は有機的につながりながら展開していきます。相当なリアリティーを持って描かれる政界財界の裏工作の模様には思わず夢中になりますし、企業として家としての力を増すたび歪んでいく家族の様もまた凄まじいドラマになっていきます。

私がこの作品を読んで感心したのは『白い巨塔』同様、表層の裏には誰一人としての絶対悪や絶対的な善意が存在しないことです。例えば一見すると本作で唯一の良心の様に見える三雲頭取は生え抜きの綿貫専務に実にエリート的な感覚でほとんど無根拠な嫌悪感を抱いているわけです。しかし本を読み進めていけば融資に関するある案件で、三雲頭取ではなく綿貫専務に理があったことが分かるような描写が登場するのです。他にも熱意の塊で読者が応援したくなる万俵鉄平ですが、仮に父親との確執がなかったとして彼の経営手腕はいかがなものか?そしてそもそも父親だからといって融資していいものか?などと考えると彼の行動の正当性にも危うい部分が数多く見られます。
このように表層的な構造の奥にはさらに複雑な社会的正義や人間関係が存在しており、正にそれが現実社会のうつし鏡のようになっているわけです。本作の鉄平にしても『白い巨塔』の里見にしても手放しで称賛、応援することが出来ない、単に気持ちの良いだけの小説ではない、それが山崎豊子作品の魅力だと思います。

余談ですが、万俵家長女から一子、二子(つぎこ)、三子(みつこ)、鉄鋼会社に勤める兄が鉄平、銀行に勤める弟が銀平と非常に分かりやすいネーミングがなされています。他でも阪神銀行の役員は大介の腹心として身を尽くした2人が専務で、実力でのし上がってきた若手4人が常務など、大量に登場するキャラクターをページを捲らずとも判別できる分かりやすい目印がつけられております。難しい名前をつけすぎて読み方すら分からなくなってしまう小説が多いことを考えると、この辺も作品に没入させる実に見事な工夫だなと思いました。

ドラマも観たくなりました
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