疑心―隠蔽捜査〈3〉/今野 敏

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☆☆☆
キャリアながら息子の不祥事で大森署署長に左遷された竜崎伸也。異例の任命で、米大統領訪日の方面警備本部長になった彼のもとに飛び込んできたのは、大統領専用機の到着する羽田空港でのテロ情報だ―。 (amazonより)

隠蔽捜査シリーズは大好きなシリーズで過去2作も高く評価してきました。今作も個人的には非常に楽しく読めましたので4つ星をつけたいところなのですが、これまで読んできたシリーズを忘れてこれ単品として読めば、おそらく3つ星が妥当だと思われます。
このシリーズの良かったポイントは官僚機構に属する竜崎を描いた点でした。しかも主人公の竜崎は、「踊る大捜査線シリーズ」の室井のように熱血漢でもなければ、異常にクールで異常に頭の切れるタイプでもなく、ごく常識的な、しかし芯の通った信念を持った官僚なのです。この作品がほかの刑事小説と違ったのはその辺りのキャラ設定で、そういったキャラ設定によって、官僚組織ならではの根回しやら何やらが出てくることでした。

今作では米大統領訪時の方面警備本部長に任命されるということで、やはりある程度官僚機構の話などは出てくるのですが、今回の1番の見どころはあの竜崎が恋をします。これを読んだ時に、「あの竜崎が!」と思えるシリーズ読者にとってはかなり楽しめる作品だと思います。しかしシリーズ読者でない方は、中年オヤジが恋をしたってだけの話なので、そこにどこまで感情を乗せて読めるかは正直疑問です。それとこれは今野氏の悪い癖なのですが、自分目線で語る団塊批判や若者への説教など、ある特定の世代にしか共感できない話を延々とセリフで書くんですね。今作はそういった文章は大幅に削られかなりスマートになってはいるのですが、竜崎の恋はやはり例の目線で描かれている部分があり、受け付けない方には受け入れにくいのかな?とも思います。今作に関して言えば、本当になかり改善されているのですが、それでも若干浅はかかなと思えるようなセリフ回しと構造は存在します。

事件自体は序盤は遅々として進まない展開ですが、最終盤では一気に加速し、かなり少ないページ数で解決に向かいます。ややもすれば、描写不足で物足りなくもなりかねない手法ですが、序盤では相当のページ数を使って複数日を描いていたのに、後半では少ないページで事件を解決に向かわせたため読者も捜査官同様の時間の流れを体感することが出来る非常に適切な手法であったと思います。また複線などは読んだ時点で気づいてしまうものが大半ですが、ある種水戸黄門的に、後半でこうなるのが分かって読む、という描き方にもカタルシスを得ることができました。

シリーズも3つ目まで来たのでキャラもの小説的な読み方も出来るようになってしまい、シリーズ読者にとっては非常に楽しめる作品だと思います。ただ、そうでない初見読者でも、しっかりと楽しむことが出来る穴の少ないエンタメ小説に仕上がっていると思います。

これまでにご紹介した今野敏作品
「蓬莱」☆☆☆☆
「イコン」☆☆☆
「神々の遺品」☆☆☆
「隠蔽捜査」☆☆☆☆
「リオ」☆☆☆
「果断―隠蔽捜査〈2〉」☆☆☆☆

隠蔽捜査 (新潮文庫)/今野 敏

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警察の表と裏99の謎―ここまで明かしてしまっていいのか (二見文庫)/北芝 健

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日本の公安警察 (講談社現代新書)/青木 理

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