ブレイクスルー・トライアル (宝島社文庫)/伊園 旬

¥590
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☆☆
懸賞金1億円の一大イベント<ブレイクスルー・トライアル>に参加することを決めた、門脇と丹羽。それは、技術の粋をつくした難攻不落の研究所に侵入し、制限時間24時間以内に、所定のものを持ち帰るというものだった。彼らにはそれぞれの過去があり、このイベントで優勝することによって人生を変えようと考えていた。
ひょんなことからイベントに紛れ込んだダイヤモンド強盗犯グループ、保険会社の依頼で、その強盗を追う私立探偵、研究所の守りを固める叩き上げ頑固一徹の管理人、ライバル会社から派遣されたスパイチームなどが参加を表明し、それぞれ思惑を胸にイベントに集結する。侵入者を阻むため、各所に設けられた指紋、静脈、虹彩などの生体認証。さらには、凶暴な番犬や新型警備ロボットの一群など、数々の障害に立ち向かい、突破するのはどのチームなのか。(amazonより)

第5回このミス大賞受賞作です。
背表紙のあらすじを読むと中々惹かれる内容で、購入してみました。ただしこういったアイデア先行タイプの新人作家の作品は危険なものが多いのも事実なので、空き時間に読もうという感覚でさして期待もせずに読みました。実際読んでみての感想は先々は期待できるが現状での完成度が…。という感じですかね。

まず難攻不落の研究所に侵入し突破できたら1億円という物語においてはありがち、しかし現実的に考えればこの荒唐無稽な設定を如何にリアリティーを持たせて書き上げるか、といった点に興味を持ちましたが、そこに関してはコンピュータ系のセキュリティー会社の企画ということで、実際にコンピューターメーカーに勤務する筆者は細部も含めてよく書けていました。
また実際に侵入する手口などもその辺りの知識が良く活かされ、中々説得的な内容だったと思います。

キャラ設定や作品構成もブレイクスルー・トライアルに参加する3チームの面々をそれぞれ違った目的、違った立場、違った進入方法をとらせることでよく書き分けられていましたね。

ただしそういった点を加味してなお2つ星なのは、多くのキャラや多くの伏線、そして多くの視点が用意されているにも関らずいずれも書き足りていないからです。興味を惹かれる話題、後に伏線として効いてきそうなネタ、魅力的な登場キャラクターなどがあるにもかかわらず、いずれもあっさりしすぎていて「あれって伏線じゃなかったの?」「あの話って特に意味はなかったの?」「こいつの背景をもっと知りたかったのに」というな感想をいくつも持ちました。
活かされない伏線であれば無いほうが良いし、膨らませるなら膨らませるでしっかり書く、この辺の書き分け省略、膨らましなどが出来るようになるともっと面白くなるでしょうね。この作品に関してはいらない部分を削りながらももっと掘り下げて1.5倍程度の分量にするか、思い切って削ってしまって3分の2程度の長さにしてしまった方が良かったと思います。
まあこの辺りの点は本格的にデビューして編集者がつけば改善されていく可能性はあると思います。
キャラの作り方や構成自体には才能の片鱗のようなものを感じたので今後に期待したいと思います。