「ハリー・ポッターと死の秘宝」 (上下巻セット) (ハリー・ポッターシリーズ第七巻)/J. K. ローリング

¥3,990
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7月31日、17歳の誕生日に、母親の血の護りが消える。「不死鳥の騎士団」に護衛されてプリベット通りを飛び立ったハリーに、どこまでもついていくロンとハーマイオニー。一方、あれほど信頼していたダンブルドアには、思いがけない過去が。分霊箱探しのあてどない旅に、手掛かりはダンブルドアの遺品だけ。 (amazonより)

先日、こちらのブログで映画版「ハリー・ポッターと謎のプリンス」のレビューをご紹介しました。これを観るために、テレビでやっていた旧作もある程度まとめて観たわけですが、いずれも脚本が散々な出来で、評価できるレベルの作品ではありませんでした。そんなわけで、これ以上ハリポタを観たいという感想は持てなかったのですが、飛び飛びとは言え4作も観てしまったので続きが気になり、最終巻は本で読むことにしました。ももんがさんには1巻から読むことをお勧めされて、それが正しい読み方だとは思ったのですが、1から読むのはあまりにしんどいので邪道ですが最終巻からスタートです。

と言うことで、ようやく書評スタートです。まずは読み出しての率直な感想ですが、映画と比較すると圧倒的に面白いです。
大目標(ヴォルデモートを倒す)があり、それを成功させるための中目標(分霊箱を探し壊す)を目指して行動するわけですが、そのためには小目標(壊すための手段を手に入れる)をこなさなくてはならい、と目的がはっきりしているので構成も分かりやすいです。ゲームのRPGに近いような構造ですので何のためにこの行動をとっているのか、ということが読者にもはっきり伝わります。正直、映画ではおなじみのあまり展開もない中だるみは原作にもあるのですが、全体の分量から言えばそれほどの長さではないので(全体が長すぎるからということもありますが)映画のようなストレスは感じなくて済みます。逆に映画では作品の6割が中だるみなのは、原作では骨休め的なパートであるハリーたちのかけ合いや、学園物語ばかりを膨らませ、主題を丸っきり無視した描き方をしているからだ、ということが良く分かりました。

内容的には児童向けな安易かつ荒唐無稽なストーリーを想像していたのですが、肉体的な意味での残酷な描写や、心理面で痛みを伴う物語要素も多く思った以上に大人も意識して作られた作品であると感じさせられました。正直、闇の帝王とまで呼ばれる相手と争っているのに誰も死なないような展開では拍子抜けですからね。

正直に言えば、少々ご都合主義的すぎる伏線のない唐突な展開や、終盤でキャラクターに解説をさせるような安易な落ちのつけ方もありましたし、訳者の問題か作者の問題かアクションシーンで何がどうなっているのか咀嚼しにくい描写などもあります。また主要キャラクターが気づいたら殺されていた(主要なキャラであるにも関わらずその人物が死ぬことになる闘いが描かれていなかった)りと、まだまだ推敲不足な点も目につきました。しかし強引に物語を引っ張るための謎などは作っていないにも関わらず、物語に夢中にさせるだけの作品としての力は見事だと思います。1巻から順に読んでいれば更に高い評価をつけられたかもしれないので、その点は残念でしたが、映画と違い読み終わった後に確かな満足感が得られる作品です。