神狩り (ハヤカワ文庫 JA (88))/山田 正紀

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☆☆☆
遺跡で発見された謎の古代文字。従来通りの解析法ではその片鱗すらもつかめない言語体系。
研究を進めて唯一確信できた情報が、13個の関係代名詞を使った入り組んだ文章であること。2種の論理記号しか使われてないこと。その2つの条件はいずれも人間の言語体系には存在しないどころか、人には使いこなせない論理体系であった。それはつまり人より上位の論理体系に位置するもの、すなわち神の存在を証明するものに他ならなかった。
古代文字を解読することで世界を手に入れようとするCIAやナチスの末裔たち、神に戦いを挑もうとする華僑、それを妨害せんとする霊感能力者、この戦いの行方は…。

古代文字の発見から人より上位の論理体系をもった存在を導き出すことで神の存在証明したやり方は見事と言わざるを得ない。また言語学を活用し神を導き出したことから、学術的、衒学的な展開を想像しがちだか、実際は非常にサクサク進み展開も速いので、中だるみ無く話が進んでいく。

しかしながら一方でそのスピード感はマイナスにも作用しているように感じた。
例えば本書における神をキリスト教(というよりはナザレのイエス)に当てはめて論じているが、あまりに説明が単純化されすぎている。話の整合性は問題ないが、あの程度の説明では本書における神の論理を無理矢理当て込んだと感じざるを得ないし、いくら神の存在を信じ始めているとは言え学者である本書の主人公があの程度の論理展開で納得するとは思えない。また本書に登場する組織がCIA、ナチ、NASA、霊能力者、華僑とあまりにステレオタイプ過ぎる。彼らが登場する必然性などを語った上でなら納得出来るのだが。少なくともある程度の歴史的事実を交えながらの説明が欲しかったように思える。正直最後の火星のくだりは余りに唐突で首をひねらざるを得なかったし。

また人より上位の論理体系を持っている、とする割には本書に登場する神は意地の悪い絶対的な権力を握った王様のように見えてしまった。良い所までいくと人が積み上げたものを崩す、これじゃあ賽の河原の鬼でしょう。
初期スピルバーグ作品の「ジョーズ」や「激突」のように絶対的な大きな力をもった存在が理不尽に理由も語らずに襲ってくる、といった描写の方が論理的な満足感は得られないものの物語としての整合性は得られたのではないだろうか?

個人的な感想としては非常に惜しい作品だったように思えます。山田正紀にとっては本作はデビュー作であり、恐らく取材にかけられる時間や費用も限定されていた(全て自腹の上、人手も自分だけ)ことは推察されます。また処女作からある程度のボリュームを持った作品を書くことが許されなかったという可能性も考えられます。
本作がもう少し、調査取材をし、時間をかけて書かれた作品であったならばかなりの傑作にもなりえたような気がするのですが。楽しくは読めたものの消化不良という感は否めません。続編も出ているのでちょっと読んでみようかな?なんて思っています。あとこの作者では前々から気になっていた「ミステリ・オペラ」も読んでみたいですね。

そうそう、本作で神に犯された、という描写が出てくるのですがこれは一般的に悪魔の仕業と言われるものです。
記憶の片隅から引っ張り出したものなので自身はないのですが、キリスト教における文脈で睡眠中に女性がオーガズムに達した例を神の奇跡と考えた例もあったとは思います。(繰り返しますがこの点は記憶があいまいなので別の宗教かもしれないし、全くの記憶違いかもしれません。)
しかし通常は夢魔とかインキュバスとか言われる悪魔の仕業と考えられます。どうもこの作品に登場する神は、一般的言う悪魔に近い気がしますね。

本作は「目次が日本一のブログ(自称w挑戦者求む)」のgoldius様にご推薦いただきました。ありがとうございます。