砂漠(Jノベル・コレクション) (Jノベル・コレクション)/伊坂 幸太郎

¥980
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☆☆☆
絶世の美人で感情を表に出さない東堂
「俺たちがその気になれば砂漠にだって雪を降らせることが出来る」と主張する西嶋
超能力を持った地味で優しく可愛い南
どこか冷めた視点で世の中を見ている北村こと僕
5人のリーダー的存在である鳥井

名前に東西南北を持つ4人がクラスにいた、というちょっとした偶然から彼らと鳥井は麻雀仲間になった。社会と言う砂漠に出るまでの最後の猶予である大学生活を描いた青春小説。

本書は春夏秋冬春という5つの章から成り立っています。各章の中では合コンや麻雀、講義に学園祭といった如何にもな大学生活を過ごす彼らですが、時に不可解な実に伊坂幸太郎らしい事件と遭遇します。章ごとは互いに強い関連性を持っていますが、それぞれ独立しても読める構造になっており連作短編小説と考えて問題がない構成です。

さて本書で起きる事件やキャラクターはそろぞれ非常に伊坂幸太郎的ではあるのですが、個人的には伊坂さんの作品の中ではワースト1です。
まず第一に5人の会話のテンポやキャラクターの取り合わせが、陽気なギャングなどと比較するとどうしても見劣りします。キャラそれぞれの魅力と言うこともあるのですが、どうも組み合わせに失敗したような感じがしないでもないです。
次にストーリー進行が非常に大掴みなことも気になりました。本作はごくありふれた大学生活の時と流れを描くことを目的としているためか、僕の視点で語られる話はそういった良くある日常などは端折って書かれているんですよね。でもその結果どうしても展開するエピソードに感情移入がしにくいんですよね。いくつかあるのですが、1番象徴的なのが恋愛に関することで、大学生における恋愛がそもそもありふれた日常であるため、この辺は大体すっ飛ばされて書かれています。そうするとある時点から突然話が展開しだしていたりして、どうものめりこめないと言うか。

どちらの要素も作者が大学生活を描くと言う際にとった特徴的な手法なので悪いことばかりではなく一長一短であることも確かなのですが、個人的には合いませんでした。といっても充分に三ツ星はつけられるレベルの作品なので興味がある方は読んでみても損はしないと思います。
感覚的には陽気なギャングチルドレンに近いテイストですね。

これまでご紹介した伊坂幸太郎作品。
「ゴールデンスランバー」
「チルドレン」
「死神の精度」
「ラッシュライフ」
「重力ピエロ」
「オーデュボンの祈り」
「アヒルと鴨のコインロッカー」
「グラスホッパー」
「陽気なギャングが地球を回す」
「陽気なギャングの日常と襲撃」