英雄の書 上/宮部 みゆき

¥1,680
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☆☆☆☆☆
「あれ」が獄を破った。戦いが始まる。

邪悪は、何と巧みに人の心に付けいるのだろうか。
宮部みゆきが放つ、戦慄の最新刊。

「ひとつ踏み誤れば、あなたも<英雄>に囚われ、呑み込まれてしまうことでしょう。<英雄>は強大です。比類なき力を擁する完全な物語でございます」

森崎友理子は小学五年生。ある日、中学二年生の兄・大樹がクラスメートを殺傷し、姿を消すという衝撃的な事件が起きた。事件から十日ほど経った時、友理子は兄の部屋で不思議な声を聞く。
「君のお兄さんは“英雄”に魅入られてしまったのだ」
本棚の奥の見慣れぬ書物が、友理子にささやいているのだった。書物に導かれ、兄を救い出す旅へ出る友理子。すべての物語が生まれ、回帰してゆく<無名の地>と呼ばれる場所で、友理子は、世界の根源というべき、おそるべき光景を目にする――
『ブレイブストーリー』から6年、宮部みゆきのファンタジー最新作。
(amazonより)

「理由」の書評でも書きましたが宮部みゆきは現代モノは全て読んでいます。ということで彼女のファンタジーを読むのはこれが初めてです。そんなわけでブレイブストーリー等と比較した上で相対的にこの作品が良作であるかどうかなどを論じることは出来ませんが、これ1作読んでの感想は流石宮部みゆきだなと唸らせるレベルでした。

少年犯罪という極めて社会的なテーマから端を発する本作はやがて物語る本たちと出合うことでファンタジーへと転化させられていきます。この作品で非常に面白いなと思ったのが「本」と「物語」に着眼点をおいた点です。ネタバレを避けたいために詳細には書けませんが、この世界に無数に存在する物語をキーワードに展開していきます。この作品を読むと多くの物語を紡ぎだしてきた宮部みゆき自身が何を考え創作しているのだろうか?と考えずにはいられません。あるいは本作で指摘されたようなことを感じながら書いているのなら、彼女にとっての創作は多くの喜びと無数の痛みを伴うものなのかもしれません。

ストーリー構成はところどころ宮部が得意とする社会的なテーマに触れながらも、ローブを纏った小学5年生の少女とお喋りなハツカネズミがひねくれモノだけど優しい剣士と無口な少年を連れて冒険するという非常にオーソドックスなファンタージーです。あるいはゲームマニアの作者の特性が存分に活かされた非常にゲーム的な雰囲気漂う作品でもあります。ただしラストに明かされる事実は非常に悲しくもやりきれないものです。しかしなぜにそれほどまでに残酷なことが行われてたのか、に対する説明は非常にクリアーかつ心情的にも納得出来るものです。ただの子ども向け御伽噺でなく強い痛みを伴うエンディングを設定した点が個人的には5つ星につながった強い要因です。その点は貴志祐介の「新世界より」にも通じるものがありますね。同じ5つ星でもあそこまでは評価できませんが。

何となく続編が期待できる作品でもありますね。今後この人のファンタジーも読んでみたいなと思いました。

こっちも読んでみたくなりました。
ブレイブ・ストーリー (上) (角川文庫)/宮部 みゆき

¥700
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