工学部・水柿助教授の逡巡 (幻冬舎文庫)/森 博嗣

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☆☆
さてMシリーズ第2弾です。
内容は前作「工学部・水柿助教授の日常 」の書評で書いたように工学部・水柿助教授という架空のキャラクターを使った自伝です。つまり水柿助教授=森博嗣助教授なわけです。ただし実際は自伝と言うほど堅苦しいものではなく、冗談交じり、というか冗談9割で日々を徒然に描いたエッセイという感じです。

前作では作家デビューする以前のお話でしたので、大学教員トリビアなんかを交えながら話が進んでいったわけですが、本作は小説家デビューまでの過程とデビュー以降を描いているのでそれなりに期待があったわけです。ところがどっこい(今時言わないか?)悪ふざけが過ぎてます。昨日書いた岡嶋二人の自伝的エッセイ「おかしな二人」のような生真面目なものははなから期待していませんでした。(前作で学んでますから)
とは言えこりゃないだろってくらいのおふざけぶりです。全編ダジャレとジョークで出来上がっているような本ですので森博嗣ファン以外の方は止めた無難です。作家になった経緯やその後の展開などが真面目に描かれているのはページ数の8分の1程度といったところでしょうか?ん~、前作のがまだ良かった。

そうそう初期森博嗣作品で散々ケチをつけてきた人物描写のゆるさ(「すべてがFになる」「冷たい密室と博士たち 」あたりの書評をご参照ください)に繋がっていた動機が本書の主人公水柿助教授=森博嗣助教授と奥さんのやり取りで分かりました。

>「殺されている人を見て、きゃあって叫んだりとか、失神したりとか、ああいうのって普通はないでしょう?人が死んでいたら、一瞬絶句して、数秒後には、警察に電話しようって考えて、ちゃんと冷静に対処するんじゃないかな」
「うん、まあ、テレビのサスペンスものはちょっと変なの」

なるほど。常日頃からテレビやら小説での過剰なリアクションに嫌悪感を抱いていたから、逆に過剰なまでのノーリアクションが誕生したのか。
納得。
確かに「いやーーー!!!」とかっては叫ばないかもね。
でも腰が抜けたり、ちょっとした悲鳴くらいはあげても不思議じゃない気もするけど。というか、だからと言ってもこの人の初期作品は知人が死んでも悲しまない、犯人その辺にいるかもしれないのに恐がらない、警戒しないって、それはそれで現実感なかったですけどね。
でもとりあえずは少し納得できました。

前作が既に絶版みたいなので森博嗣ファンは速めに買っておくように。それ以外の人はやめておくように。

ちなみに引退決意に至った経緯を描いた続編。
私は買いませんがよければどうぞ。
現在はハードカバーのみです。
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工学部・水柿助教授の解脱/森 博嗣

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