丘の上のパンク

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これまでに発売情報などを2回ブログに書いた「丘の上のパンク」。先日も書きかましたが初版の部数が少なく既にプレミアがついていますね。2刷が出る前の段階では5000円近い価格で落札されていました。現在は2刷が並んでいるはずですが、amazonでは既に品切れのようです。上のリンクからはまだ買えるみたいなのでお急ぎの方はどうぞ。作者のブログによれば2刷も少ないようです。

さて、ようやく普通の書評です。
本書は藤原ヒロシ半生記ということで謎に包まれていたHFの実存が明らかになるかと思っていたんですが、その辺に関する言及はあまりありません。冒頭で編者の川勝正幸自身がこういった自伝には欠かせない恋愛関係に関する記述は無いと書いていましたが、それ以外にも金回りであったり彼自身のプライベートな生活部分についてはあまり触れられていません。それどころか思いのほか、藤原ヒロシ本人の言葉も少ないです。

それでは本書が描いているものは何かと言えば、藤原ヒロシが体験した、あるいは彼が生み出し広げたカルチャーがその中心です。セディショナリーズへの興味と人脈、ちょっとした幸運からセッズの生みの親であるマルコム・マクラーレン、ヴィヴィアン・ウエストウッドそしてセックスピストルズとの出会いなどがパンクの誕生自体にも言及されながら描かれています。その後もスケーター、DJ、リミックス、HIPHOP、裏原宿、NIKE、STUSSY、ヘッドポーター、現代アート、ピストといった彼が世間に先駆けて触れ、そして広めてきた文化の多くについて、それぞれの重要人物の証言によってその成り立ちから、その後藤原ヒロシがどのように関ったのかについて述べられています。特徴的なのはその描き方で、今回新たに取材したモノ、当時の文献からのコメントなどを見事につなぎ合わせ一時代を映し出しています。よくドキュメンタリー映画などで見られる別の場所でとったコメントをまるで会話をしているかのようにつなぎ合わせる手法がとられており複数の媒体からとられたコメントをあたかも対談しているかのように編集されています。相当数の文献を漁りつなぎ合わせてるはずなので、極めて書籍的な作業をしているはずなのですが、印象としては映像を見ているような感覚を得られる作品でもあります。

後々にはサブカルチャー関係の資料的な価値も出てきそうな本書ですすが、その特徴ゆえにLevi's fenomやフラグメント、ヘッドポーターといった藤原ヒロシのデザインした洋服にのみ興味を持っている比較的若い世代にはあまり楽しめないないようになっています。個人的には内容と合わせてその編集方法に感服し、今月初5つ星です。年間ベスト候補の1冊ですね。

しかし藤原ヒロシのお姉さんって何物なんだろう。なんだかんだで彼女のブログもちょくちょくチェックしているんですが、相当リッチかつVIPな感じですよね。