黒い家 (角川ホラー文庫)/貴志 祐介

¥700
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☆☆☆☆☆
女ターミネーターシリーズとタイトルからして作品を揶揄するような書評をしてきたわけですが、今作は5つ星です。
とにかく怖いです。私が今までに読んできた本の中でも最も恐ろしい小説です。
主人公は生命保険会社に勤務するサラリーマン。彼は自身の元に舞い込んだ不振な案件の保険金受取人である黒い家の住人の調査に乗り出す。その黒い家に住民こそが主人公を恐怖の底へと突き落とす女ターミネーターなわけですが。
作者は元々生命保険会社に勤務していただけあって、話の流れが非常にスムーズかつリアリティーがあります。そのため普通の人が異様な人間と関わり事件に巻き込まれていくのが実に自然に描かれています。

一般的にも非常に評価の高い作品ですので、細かいことをどうこうとは書きませんが、今作はごく普通の人が異様な世界に巻き込まれていく、という作者のスタイルのプロトタイプになった作品です。
これまでに書いてきた女ターミネーターシリーズ(勝手に言ってるだけですが)の相手たちは、文字通り叩こうが、撃とうが轢こうが何をしても死なない人間離れした人間たちでした。しかし本作に登場する女ターミネーターは善悪の感覚が欠落した極めて凶悪な精神の持ち主ではありますが、肉体的にはあくまで通常の人間です。(普通とは言えないかも知れませんが、まあ普通です)普通の人間が異常な、でももしかしたら存在するかもしれない、そんな事件に巻き込まれていく。そこに自分と世間を重ね合わせ、真綿で首を絞まられていくような、振り向くのが恐ろしくなるような、そんなじわじわとした恐怖感を感じるわけです。
勿論そんな大枠だけでなく細かなプロットや心理描写も秀逸ですよ。貴志祐介は日本で最も力のある、そして当たり外れの少ないミステリー作家の1人だと思います。