ロスト・シンボル 上・下 2冊セット/ダン・ブラウン

¥3,780
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☆☆☆☆
キリストの聖杯をめぐる事件から数年が経ち、ハーヴァード大で 教鞭を執る静かな生活を送っていたラングドンに、旧友から連絡が入る。フリーメイソン最高位の資格を持つスミソニアン協会会長ピーター・ソロモンからで、 急遽講演の代役を頼みたいという。会場である連邦議会議事堂に駆けつけるが、そこにピーターの姿はなく、切断された右手首が……薬指には見覚えのある金の 指輪。フリーメイソンの紋章をあしらったその指輪は、ピーターのものに間違いない。ピーターを人質に取ったというマラーク(悪霊)と名乗る謎の男は、ラン グドンに“古の門”を探せと命じる。ピーターの右手の指先に施された独特の刺青が“古の門”の先にある“古の神秘”を指し示す図像であることにラングドン は気付く。誘拐犯マラークの目的は、この恐るべき力を持つとされる“古の秘密”を手に入れることにあるのは明らかだった。ラングドンは駆けつけたCIA警 備局長サトウと共に、まずは、“古の門”の捜索に乗り出すのだが……。 (amazonより)

ダン・ブラウンのロバード・ラングドンシリーズ最新作です。
これまでの作品をお読みになっている方ならおわかりになると思いますが、基本的なプロットは前作まで同様です。
重大な秘密を持ち同時に極めて高い社会的な立場を有する人間が何者かによって犠牲にあいます。ラングドンはその人物に呼び出されることによって事件に関わることになります。
犯人は犠牲になった人物の持つ秘密とある科学的な発見、もしくは科学によって得られる力を手にしようとするわけですが、そのためには宗教や象徴学にまつわる謎を解かねばならないわけです。

ラングドンは犠牲になった人物、あるいは事件をとめるためにその謎を解かねばならず、しかしそれは同時に犯人の目論見をかなえることにも繋がるわけです。このあたりの二律背反が単なる謎解きに終わらず物語に深みとエンタテインメントを与えてくれるわけです。

ちなみに本作でも犠牲となった人物の血縁者とラングドンは多少恋に落ちかけるわけですが、毎回人は変わるし、手を出しちゃうわけでもなしこのパートそろそろいらないんじゃないか?という気もしています。

作品の面白さはこれまで同様で、序盤で徹底的に都市伝説的なものを否定しているラングドンがある事実に近づくことによって如何にも都市伝説的な歴史的事実を認めざるを得なくなるという展開です。この辺の説得力の作り方や読者への掴みは見事の一言ですね。

ただそれでも本作はこれまでの2作と比べると全体のまとまりなどが少々弱いです。
1つには最終低に明らかになる事実が決定的に弱いです。というかそれを知ったからといって特別どうこうなる話ではないんですね。この辺は『ダヴィンチ・コード』の結末比べるとまるで衝撃が弱いです。
また科学的事実の活用法もうまくないです。犯人は今回登場する科学的事実をなぜああしなければならなかったのか?という必然があまり見えてきません。これは『天使と悪魔』の犯人が行使しようとした科学技術の使い方と比べるとはっきり弱いです。

また謎の解き明かされ方に関しても同様で今回もラングドンはあるパズルを解きながら逃げ回るわけですが、そのパズルはAが解けるとBがわかり、それも解けるとCがという繰り返しで最終的な事実を指し示すわけです。
ところが今回の場合Aが解けるとBなしでDにもFにも発展しかねない作られ方なんですね。これは読む側にとってはそんなパズルで順番どおりに進むのはご都合主義的過ぎる、と思わせるだけではなく、このパズルを作った人間の意図に反するはずなわけです。1つにはある種の時間稼ぎを狙ったものでしょうし、1つにはこのパズルを解くほど知恵ある人間に秘密を託す、という意味でしょうからその意味でも不完全です。

相変わらずアクションあり、恋愛あり、謎解きあり、雑学あり、とエンタメ作品に必要な要素をめいっぱい詰め込みながら丁寧に一作にまとめた良書だとはお思いますが、ラングドンシリーズ未読の方は恐らく最高傑作である『天使と悪魔』から読まれることをお奨めしたいです。


天使と悪魔 (上) (角川文庫)/ダン・ブラウン

¥620
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天使と悪魔 (下) (角川文庫)/ダン・ブラウン

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天使と悪魔 (中) (角川文庫)/ダン・ブラウン

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